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2017-03-18

英米に伝えられた攘夷の日本(1-4)追記

2016〜2017年の日米関係が「黒船トランプ?:日本はNOと言えるか」とアメリカのメディアに評されています。

21世紀の日米交渉

 160年以上前の日米のやり取りを訳しながら、現在起こっていることと通じるという思いを強くしました。特に2017年2月10〜12日に行われた日米首脳会談をめぐって、アメリカのメディアでどう報じられたかに焦点を当てると、安倍自民党政権の対米交渉が、国を守ろうとした幕府と真逆の対応であることに絶望します。

 倍首相の訪米直前に発行された『Newsweek日本版』(2017年2月14日号、(注1))のカバー・ストーリーは「黒船トランプ?:日本はNOと言えるか」で、ペリー提督の軍服を着たトランプ大統領の姿が大きく印刷されています。特別レポートは「トランプの『外圧』は理不尽か:通商関係や為替について不満をこぼすトランプ米大統領だが新政権の対日姿勢は大騒ぎするほどのものではない」という見出しで、トランプ氏の発言に対し日本のメディアが過剰に反応して、「あろうことか先週、安倍政権がアメリカで70万人の雇用創出に向けた投資計画を準備していると報じられた。同盟国とはいえ、なぜわざわざ世界第1の経済大国(しかも完全雇用に近い)のために雇用創出プランを作る必要があるのか。(中略)日本はトランプのATMではない」(pp.23-24)と批判しています。そして、「うろたえずに泰然と構え、理不尽な要求には毅然と向き合えばいい」と結んでいるのが、1853年にペリーに対応した幕府の役人たちの態度と重なります。

 70万人の雇用を創出するための投資額は51兆円とされ、この巨額をアメリカのインフラ整備に投資するというニュースも世界を駆け巡りました。2月10日のBBCとCNNニュースでも取り上げられましたが、CNNは,借金大国の日本が51兆円もアメリカに投資するというcharm offensiveという伝え方でした。CNNの女性アンカーはcharm offensiveという語を2回も使い、呆れたを通り越した表情だったことも印象的です。Charm offensiveという語は、主に政治家がご機嫌取りのために魅力的なものを計算づくでキャンペーンとして使うという否定的な意味があるようです。また、offensiveには攻撃的という意味以外に、不快な行為というニュアンスもあります。

 借金大国日本というのは本当で、2016年の対GDPの国の借金は日本がダントツで、250.35%、2位のアメリカは108.25%で、日本はアメリカの2.3倍、ドイツ(68.17%)の3.7倍もの借金を抱えた国です(注2)。その上、日本の道路(60km/h以上)のインフラ整備水準はアメリカの10分の1、高速道路では33分の1(注3)というお粗末さです。その日本がなぜアメリカのインフラ整備に資金提供しなければならないのでしょう。

 安倍外交がcharm offensiveだという表現は、イギリスの主要メディア『ガーディアン』(2017年2月10日、(注4))も使って報道しています。該当箇所を抄訳します。

安倍は手ぶらでワシントンに来るわけではない。外務大臣・岸田文雄と財務大臣・麻生太郎とともにやってきて、高速電車やその他のインフラに公的・民間資金から投資して、70万の雇用を生み出す野心的な政策パッケージをトランプに開陳して直接アピールするとみられる。

(中略)安倍はトランプの移民政策を批判しなかった数少ない世界のリーダーの一人である。

(中略)今週末の会談は安倍のcharm offensiveの集大成である。それは11月にまだ次期大統領だったトランプと会った時に始まった。この時、二人は「ゴルフ外交」の基礎を固めた。トランプは安倍にゴルフ・シャツを、安倍は$3,700の金色のゴルフ・クラブをお返しした。ニューヨークから戻ると、安倍はトランプが世界が信頼できるリーダーだと主張したが、大統領就任後に選挙中の公約であったTPPからの離脱を実行して東京を絶望に陥れた。

国民の年金を世界一の経済大国に貢ぐ安倍自民党政権

 70万の雇用を生み出す投資資金が日本国民の年金から出ることも世界のメディアで大きく取り上げられています。『エコノミスト』は「日本の首相がドナルド・トランプと『また』会う—安倍晋三は豪華な投資のオファーを携えてやってくる」(2017年2月11日、(注5))という見出しで、以下の点が報道されています。

  • トランプが当選した直後に「飛行機に飛び乗って次期大統領に会いに行き、金メッキのゴルフ・クラブを贈り物として持って行った」。
  • 「2017年2月9日に安倍氏はまたアメリカに飛び、今度はもっと豪華な贈り物:70万の雇用を生み出すプランを持ってくる」。
  • 「安倍のプランはアメリカ軍艦の老朽化した原子力発電の廃炉や、ハイテック兵器の開発などに投資するというもので、その資金は世界最大である日本の135兆円の公的年金からも出る」。

 この前日には福島第一原発の2号機格納容器内が毎時650シーベルト(注6)、1週間前には530シーベルトと報道されましたが(注7)、この線量を浴びれば即死ですから、廃炉作業など不可能だという事実が次々と表面化しています。日本国内の安全も確保できずに、アメリカの廃炉事業に国民の年金を投資するとは、安倍自民党政権は何を狙っているのでしょう。福島第一の廃炉作業と超高線量に対する責任ある対応を日本政府に求めるという声明が中国政府から出されました(注8)。近隣諸国は気が気ではないでしょう。

 『フィナンシャル・タイムズ』は「安倍晋三はトランプに言い寄るためにビジネス誓約を大宣伝—日本企業は大統領向けのプレゼンテーションにアメリカ投資を列挙せよと要求」(2017年2月7日、(注9))の中で以下の点を強調しています。

  • 日本のトップ企業の重役たちによると、政府高官が彼らに接触して、投資数を求めているという。公的投資機関によると、首相は高速鉄道などのアメリカのインフラ・プロジェクトに対する巨額の投資を誓約せよと圧力をかけているという。
  • 安倍氏が贈り物を持ってくるためのこの驚くべき努力は、アメリカ大統領と個人的な絆を築きたいという彼の決意の表れである。
  • 独立機関ではあるが、巨大な年金積立管理運用独立行政法人(GPIFを直訳すると、政府年金投資ファンド)はグローバル・インフラに投資する計画があり、安倍氏が示す数字に含まれている。
  • ある銀行家は、安倍氏が障害について述べずに大きな誓約をすることに懸念を覚えると言う。

トランプのインフラ計画には大きなリスクがある

 安倍氏とトランプ氏との会談直前に『ニューヨクタイムズ』が「トランプのアドバイザーのインフラストラクチャー税額控除プランはリスクがある」(2017年2月7日、(注10))という記事を報道しました。このプランに投資してもリターンがないという分析です。同じような警告は去年の段階でもされていました。『ウォールストリート・ジャーナル』が「トランプ氏のインフラ投資計画、失速の恐れも」(2016年11月14日、(注11))で、1兆ドルのインフラ建設計画は、利益を出す必要がある民間出資には向いておらず、「関係当局は、老朽化が進むインフラを膨大な公的資金の投入なしで整備できるかどうかにも疑問を抱いている」と書かれています。

 利益の出ない投資に日本の年金資金を提供する一方で、平成29年度から年金支給額を引き下げる(注12)といいます。年金をアメリカのインフラに投資するという安倍自民党政権の計画が世界中に大々的に報道されると(「日本の年金メガファンドがアメリカのインフラに投資」2017年2月2日、(注13))、年金積立管理運用独立行政法人の高橋則広理事長は「そのような事実はございません」と声明(2017年2月2日、(注14))を出しましたが、国会で追及されると「結果としてアメリカのインフラへ投資されることもありえる」と認めたそうです(注15)

 上記の『ファイナンシャル・タイムズ』の記事(2月7日)では、投資すると誓約せよと「安倍首相が圧力をかけている」と明記されています。その上、高橋則広理事長自身が2016年11月30日の『ウォールストリート・ジャーナル』(注16)のインタビューで、トランプ氏のインフラ計画に投資したいと語っているのです。この記事では、GPIFを「1.2兆ドルの日本の年金積立金は世界一の規模」と始めて、まるで日本国民の年金130兆円すべてをGPIFが世界に投資すると受け取れるような発言になっています。

 実は安倍氏自身が国民の年金130兆円を投資して貢献すると、2014年1月のダボス世界経済フォーラムで述べていました。「1兆2000億ドルの運用資産をもつGPIFが(中略)成長への投資に貢献します」(注17)と世界に向けて宣言したのです。しかも、年金130兆円の権限はGPIFの高橋理事長一人にあるというのですから、安倍首相の意向に沿うように運用する権限があることになります。

 一方、2016年7月に発表されたGPIFの運用実績は5.3兆円の運用損、15ヶ月で10.5兆円も「国民の年金を溶かしてしまった」(注15)のに、国家公務員の年金「国家公務員共済」は安全運転で運用益を出していたそうです。表向きはGPIFに追随する共通指針にすると2015年3月に報道された(注18)にもかかわらず、裏にカラクリを潜ませて、安全な国内債券で運用するようにしているため、国民の年金がGPIFによって運用されて、5.3兆円マイナスになった同時期に、国家公務員共済年券は運用益があがったといいます(注19)

安倍自民党政権が狙っていることは何か?

 年金の投資以外に、日本の貧困率の増加について安倍自民党政権が無視していることを海外のメディアが報じています。『フォーブス』がOECD2015年のグラフ(65歳以上の相対貧困率が高い国)を発表し、日本が最下位から4番目だと伝えています(2015年12月15日、(注20))。また、『エコノミスト』が「日本の子どもの貧困:隠された破滅 日本は自分たちが考えるよりずっと多くの子どもの貧困がある」(2016年5月12日、(注21))という記事で、「日本の子どもの貧困率はOECDの国の中で最も高い国の一つで、格差の広がりはアメリカよりずっと大きく、メキシコとブルガリアのレベルと大差ないと先月ユニセフが言った」と報じています。

 『ガーディアン』(2017年1月17日、(注22))では、日本の子どもの相対的貧困率が6人に1人、350万人いること、日本の貧困率全体が16.3%に上昇していること、先進国41カ国のうち、日本の子どもの貧困率は34位であること、350万人の子どもたちは生活保護受給資格があるのに、20万人しか受けていない事、それが日本社会に蔓延する偏見によること、政府が何もしないので、民間ボランティアで「子ども食堂」を運営していることなどを報じています。生活保護受給に関して、日本社会が不寛容だというのは『エコノミスト』も強調しています。

 この端的な表れが2017年1月17日に明らかになった、小田原市生活保護担当者が「保護なめんな、(不正受給しようとする人々)はクズだ」などと書かれたジャンパーを着て、生活保護の受給を阻止する動きを自治体がしているというニュース(注23)がありました。北九州市では受給を受けられなかった申請者が餓死する事件が次々と起こったそうですが、最初に所得格差を拡大させ、貧困を増大したのは小泉純一郎元首相の時代で、その後の餓死事件の後に第一次安倍政権は生活保護基準の見直しを行い、給付水準を10%引き下げるという公約のもとに2012年12月に政権に復帰し、13年に申請厳格化という生活保護法改正を成立させたのです。不正受給は0.53%なのに、正当な受給申請さえ阻止し、その結果死亡者が増えているそうです(注24)。安倍氏の認識は「日本は裕福な国」というもので(注25)、子どもの貧困率が増え続けているのに、「子供の貧困は大きく改善した」(2016年12月8日)と公言しています(注26)

 安倍政権が狙っているのは国民の財産だけではないようです。TPP(環太平洋経済連携協定)と、これから米国との間に起こるであろう二国間自由貿易協定に関する諸問題を検証すると、安倍政権が何をしようとしているのかが見えてきます。長くなりますが、ペリーに立ち向かった幕府の国を守る姿勢と比較するために、安倍自民党政権が狙っている事柄を並べてみます。

  • 2016年11月4日に衆議院TPP特別委員会で、TPP法案の強行採決
  • 2016年12月8日、参議院TPP特別委員会で、TPP予算(1兆2000万円)は執行停止せずと安倍首相が明らかにした。
  • 2017年1月23日、トランプ大統領がTPP離脱の大統領令に署名し、発効不可能
  • 2017年2月の国会に提出される水道事業の民営化法案
  • 森林=水資源の外資買収に対する日本政府の姿勢

国連人権理事会報告書が警告するTPP他自由貿易協定の危険性

 メディアはほとんど報じていませんが、国連人権理事会の報告書で、「TPPに署名も批准もしないように」という警告がされました。「民主的で公平な国際秩序の推進」((2015年7月14日, (注27))という題名の50ページにわたる報告書です。この警告を読むと、なぜ安倍政権が強行採決までしてTPPを通したかったのか、なぜ水道民営化を法制化しようとするのかが見えてきます。ちなみに、この報告書以前(2015年6月)に、アメリカ上院議員のバーニー・サンダーズ氏はアメリカ議会の予算委員会で同じような警告を発しています(注28)。以下に国連人権理事会報告書の主要点を抄訳します。

  1. TPPを含めた自由貿易協定というのはGDPや雇用を増やすと謳っているが、そんな証拠はないと、ノーベル経済学者たちが警告している。ノーベル経済学者たちは、TPPがGDPの収縮、雇用と個人収入の減少をもたらし、財政不安定が増すと予想している。
  2. 国際協定と投資家対国家の紛争解決裁判は、少数の限られた企業弁護士とロビイストだけが秘密裏に行うため、民主主義が著しく欠如しており、国家が情報開示することもなく、議会を迂回して早急に批准締結することさえ起こっている。投資家対国家の紛争解決裁判の調停者は企業側の人間で、公衆を守るのではなく、企業と投資家を守ることは過去の経験から明らかである。投資家は国家を訴えることができるが、国家は投資家を訴えることができない仕組みで、調停者は国際投資協定の解釈から、人権と環境を除外している。

例1:

アメリカで登記されているローン・パイン社(石油とガス採掘)が2013年にNAFTA協定を元に、カナダ政府に2億50万ドルの損害賠償を求める訴訟を起こした。ローン・パイン社がケベック州のSt. ローレンス川の下で行っていた水圧破砕をカナダ政府が中止するよう求めたからである。カナダ政府が水圧破砕による化学物質が発がん性物質を含み、大気汚染の危険性があることを証明する科学調査を検証する時間を、ローン・パイン社は与えず、カナダ政府の中止がローン・パイン社の利益を没収していると訴えた。

例2:

アメリカの廃棄物処理企業メタクラッド(Metaclad)がメキシコに建設しようとした廃棄物処理工場がメキシコの水道水を汚染するため、メキシコ政府が建設を許可しなかったことで、NAFTA協定を元にメキシコ政府を訴え、調停者は2000年にメキシコ政府に対して、メタクラッドの利益を失わせたと投資家を擁護して1700万ドルの賠償を認めた。

例3:

2013年にフランスの水企業ヴェオリアが、エジプト政府が最低賃金を上げたために予定の利益が失われたとエジプト政府を訴え、8200万ドルを要求している。

例4:

ボリビア政府を訴えたAguas del Turani S.A社。ボリビアはコチャンバ市の水道事業を民営化し、この交渉は世界銀行が民営化を条件に融資を承認した。Aguasの大株主はアメリカ企業のベクテルとスペインのアベンゴア社である。1999年に契約が実行されると、水道料金が大幅に上がった。市民が正当な水道料金の権利を求めるデモを起こすと、政府は戒厳令をしいて軍が鎮圧した。17歳の未成年者が鎮圧で亡くなった後、ボリビア政府は民営化契約を破棄したため、Aguas社はボリビア政府に5000万ドルの賠償を求めた。

例5:

2009年にスウェーデンのエネルギー電力会社バッテンフォールがエネルギー憲章条約を元に、ドイツ政府を訴えた。エルベ河に冷却水を流すことを制限する環境法を理由に14億ユーロの賠償をドイツ政府に求めた。ドイツ政府は環境基準を下げ、川と野生生物への悪影響を放置することで解決した。

 福島事故後にドイツ市民が原発廃止を求めたために、政府は原子力の段階的廃止を決めたが、バッテンフォールはドイツ政府に対して40億ユーロの賠償を求めている。

結論:

ようやく政府も議会も、企業が主権国家の基本に反する動きをしていることに反対し始めている。EU議会ではTTIPの議論に関連して、企業の脅迫という問題が取り上げられている。バッテンフォールやヴェオリアのような多国籍企業が企業と投資家を守るためのルールを使って企業利益を優先するために、納税者が公共政策やルールを守るコストが高まっていることを議論し始めている。カナダのような先進国でさえ、企業が国家を訴える紛争解決裁判という脅威のために、社会立法を行うことができない。途上国は多国籍企業から国を守る資金がないため、この脅威にもっと弱い。

 投資家による権利の乱用があまりに目に余るので、そのうち、武器製造国が非人道的武器である地雷やクラスター爆弾の製造量を減らしたり、製造を止めたら、軍需産業がこの投資家対国家の紛争解決裁判を起こすことも考えられる。

日本のTPP交渉

 上記の問題を知ると、トランプ氏が大統領就任後にTPPからの離脱を決定したのは、日本の主権を守る意味では良かったと思いますが、トランプ氏が主張する二国間協定はTPPよりも厳しいだろうと元農林水産大臣の山田正彦氏は危機感を表明しています(注29)

 国連人権理事会報告書の事例を日本に当てはめてみると、以下のことがわかります。

  • 甘利明・前TPP担当大臣の交渉成果はなし:キャノングローバル戦略研究所上席研究員・山下一仁氏の分析(注30)によると、関税の点では、日本がアメリカに対して支払っている自動車の関税額1千億円は25年間撤廃されず、自動車部品の関税200億円が即時撤廃されるだけで、成果はほとんどなしということです。
  • 日本の主権を外国企業に売り渡す協定:「保険等の非関税措置に関する日米並行交渉に係る書簡」の内容は、日本国内の規制に関して外国企業が意見や提言をしたら、日本がそれに従って必要な措置を取るという取り決めで、TPP協定第8章7条にも明記されているそうです(注29)。山田氏が挙げている例は、遺伝子組み換え作物種の企業モンサントなどが遺伝子組み換え食品の規制について要求する可能性です。企業の要求に合わせて日本の法律を変え、食品表示法が改悪されて、遺伝子組み換え農産物の表示義務は廃止される可能性があると警告しています。

     「保険等」と書かれた協定が示すのは、医療・福祉の分野でも国民の健康と暮らしを破壊する動きが強まること、「日本独自の薬価決定システムが崩され」、医療費の高騰などが避けられないとも警告しています。この点も国連人権理事会報告書で指摘されていたのと同じです。「全国保険医団体連合会」会長が2017年11月25日の参議院TPP特別委員会公聴会で訴えた内容(注31)とも重なります。TPPは「わが国の公的医療保険制度を切り崩す」「新薬の高止まりが続き、医療保険財政を圧迫する」「医療の非営利性が脅かされる」「共済制度に民間保険会社と同等の規制がかけられる恐れがある」などと訴えています。

  • 水道事業の民営化:国連人権理事会報告書の例3にある、エジプト政府を訴え、8200万ドルを要求しているフランスの水企業ヴェオリアは松山市の水道事業を2011年に受託しました。日本の水道事業に投資家を優先する外国企業の参入が加速していると、『日本経済新聞』の記事「外資が水道事業で攻勢、仏ヴェオリアが松山市から受託」(注32)で伝えています。

     水道事業の民営化は2017年2月に国会に提出されると報道されていますが、麻生太郎氏が2013年4月19日に、ワシントンの戦略国際問題研究所で講演し、日本の水道を100%民営化すると発表しています(注33)。参議院議員・山本太郎氏は2015年9月11日に内閣委員会で、この件について質問しています。水道事業は国と地方自治体あわせて30兆円規模の資産だし、国民の生命維持の根幹をなす水を外国投資家に切り売りするのは非常に危険だと警告していますが、当時の国務大臣・甘利明氏は、その考え方は私見だと一蹴しています(注34)

     水道の民営化がいかに危険な政策かというのは、「過去に民営化した世界各地の自治体およそ4分の1が契約を打ち切り、再び公営に戻していること」から明らかだと、「世界の水道事業民営化に逆風<料金の高騰><不透明な経営><質の低下>などの問題から再公営化する自治体が増えている今、なぜ日本で・・・」(注35)という記事が解説しています。水道事業民営化はTPP承認を強行採決させた理由の一つで、TPPの本質である「日本を丸ごと米国に売り渡す」(注29)ための様々な法制化だとのことです。

  • 二国間協定の恐ろしさ:韓国は2012年に米韓FTAを発効し、その結果、「畜産業の7割は潰れてしまい、多くの農協も潰れ、医薬品の価格は倍になって、医療法人は株式会社になり」、「学校給食の地産地消も困難になっています。貧困率も上昇しました」(注29)とのことです。
  • 水資源:水資源の源となる森林の外資買収について、ブルームスバーグの記事「中国など海外勢が狙う日本の水、森林買収進む—温暖化で世界的に不足」(2012年11月6日,(注36))によると、2010年の外国人の森林買収は45ヘクタール、2011年は157ヘクタールで、3倍以上に増えています。直近データ(農林水産省:2016年4月27日 (注37))によると、2015年は合計408ヘクタールです。以下の報告書によると、森林の値段は1ヘクタール、20万円以下(2012年)ですし、外資が購入するのは簡単だそうです。

     東京財団のレポート「外資買収に見る、日本の甘過ぎる土地制度—『消えた土地所有者』の解明を急げ」(2012年9月26日 (注38))によると、「欧米では厳格な利用規制などによって個人の土地所有権に一定の制約を課して」おり、「土地は公のもの」という考え方があること、アメリカでは「国の重要なインフラや基幹産業に対する投資について、政府がいつでも情報把握や公的介入ができる制度を整えている」とのことです。また、「オーストラリア、ニュージーランドを含めた近隣アジア太平洋14カ国において、土地売買における外資規制が皆無なのは日本だけ」といいます。政府は2016年10月になってようやく外資の土地買収の実態調査を始めるとのこと(注39)ですが、日本の地籍調査(一筆ごとの面積、境界、所有者の確定)は50%しか完了していないため、土地の所有実態が追えないと指摘されています。

 トランプ・安倍会談の成果が「共同声明に『尖閣』を入れるため、安倍政権がトランプに差し出す日本の平和と主権」(注40)と評されるのも頷けますが、衝撃的なのは、この日米首脳会談を70%の人が評価したという世論調査結果です(注41)。この結果をいち早く報じた海外メディアは、「人種差別、反ユダヤ、外国人排斥を掲げるオルタナ右翼のニュースサイト『プライトバート』でした。「トランプを操る男」と評されるスティーブ・バノン氏が、2016年8月にトランプ選挙対策本部長に就任するまで運営していたメデイァです。極右メディアがどう報じているか興味深いので紹介します。「日本の70%が安倍晋三のトランプ訪問を支持:共産党は激怒」(2017年2月13日、(注42))という見出しの長い記事です。日本人の70%が支持しているのに、野党の民進党と共産党党首が安倍を批判(トランプの移民入国禁止令に反対しなかった)と紹介してから、移民も難民も入れない日本にトランプ批判などできるかという論調で、日本の難民受け入れ状況を紹介しています。2016年に難民資格を申請した外国人のうち、わずか0.26%しか受け入れなかった、シリアやイラクなどから認めず、アフガニスタンやバングラデシュからだけだと。2015年には27人だけで、このわずかの難民支援を問われて、安倍は日本には多くの社会問題が山積しているため、難民を受け入れられない、難民を受け入れる前に、女性活躍や高齢者問題、そして出生率を増加させる問題に対処しなければならないと、中東に新たない数十億ドルの支援をするというスピーチの中で言ったと書かれています。バノン氏と『ブライトバート』については、『Newsweek日本版』(2017年2月21日号)がカバーストーリーで詳しく紹介しています。「トランプを操る男:ホワイトハウスで暗躍する戦略官スティーブ・バノン『もう一人の大統領』の恐るべき世界観とは」という題名で、手足に紐をつけられた操り人形のトランプ氏が描かれた表紙です。

 この原稿を書いている最中に、トランプ大統領の支持率が40%に落ちたというニュース(2017年2月11〜13日のギャロップ調査、(注43))と、トランプ氏の側近が選挙期間中からロシア高官に頻繁に接触していたというニュースが入ってきました。トランプ政権がいつまで続くのか不安定要素が次々と出てくるのに、安倍首相はドイツのメルケル首相にあって、「米大統領の考え伝えたい」と、ドイツ訪問するという驚きの報道が同時期にされました(注44)。こんな首相を日本では70%が支持し、アメリカでは40%というのが何を意味するか、考え込んでしまいます。

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1. 横田孝「トランプの『外圧』は理不尽か—通商関係や為替について不満をこぼすトランプ米大統領に対日姿勢は大騒ぎするほどのものではない」『Newsweekニューズウィーク日本版』vol.1533, 2017年2月14日。
2. ”National debt of important Industrial and emerging countries in 2016 in relation to gross domestic product (GDP), The Statistics Portal,
https://www.statista.com/statistics/264647/national-debt-of-selected-countries-in-relation-to-gross-domestic-product-gdp/
3. 大石久和(財団法人国土技術研究センター理事長)「整備水準が低い日本のインフラ 世界各国との差は広がってる」『北陸の視座』vol.20, 2008.3
http://www2.hokurikutei.or.jp/lib/shiza/shiza08/vol20/topic2/02.html
4. Justin McCurry, “Golf diplomacy: Japan’s Abe hopes for strokes of genius to seal Trump trade pact”, The Guardian, 10 February 2017
https://www.theguardian.com/business/2017/feb/10/golf-diplomacy-japans-abe-hopes-for-strokes-of-genius-to-seal-trump-trade-pact
5. “Japan’s prime minister meets Donald Trump—again: Shinzo Abe is bringing an offer of lavish investment with him”, The Economist, Feb. 11, 2017
http://www.economist.com/news/asia/21716655-shinzo-abe-bringing-offer-lavish-investment-him-japans-prime-minister-meets-donald
6. 「福島2号機、格納容器内650シーベルト? 作業中断」『日本経済新聞』2017年2月10日
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO12753600Z00C17A2CR8000/
7. 香取啓介・佐々木英輔「530シーベルトの衝撃 福島2号機、見通せない廃炉」『朝日新聞』2017年2月3日
http://digital.asahi.com/articles/ASK226SS3K22ULZU014.html
8. 「中国、福島原発を巡り、日本に責任ある対応を要請」『Pars Today』2017年2月9日
http://parstoday.com/ja/news/japan-i26105
9. Robin Harding, Leo Lewis and Kana Inagaki, “Shinzo Abe drums up business pledges to woo Trump: Japanese companies urged to detail US investment for presentation to president”, Financial Times, February 7, 2017
https://www.ft.com/content/cdae8542-ed22-11e6-930f-061b01e23655
10. “Trump Advisers’ Tax Credit Plan for Infrastructure Has Risks” (The Associated Press, AP通信), The New York Times, Feb. 7, 2017
https://www.nytimes.com/aponline/2017/02/07/us/politics/ap-us-trump-infrastructure.html
上記サイトの記事が消されているので、下記のリンクを利用
http://bigstory.ap.org/article/842b82208a44496193d4670a16c7dd0f/trump-advisers-tax-credit-plan-infrastructure-has-risks
11. David Harrison, 「トランプ氏のインフラ投資計画、失速の恐れも」The Wall Street Journal, 2016年11月14日
http://jp.wsj.com/articles/SB10780138144506903447704582435823812581162?tesla=y
12. 「年金の支給額、4月から0.1%引き下げ 厚労省発表」『朝日新聞』2017年1月27日
http://digital.asahi.com/articles/ASK1W2VZJK1WUTFK002.html
13. “Japan’s pension megafund to invest in US infrastructure”, Nikkei Asian Review, February 2, 2017.
http://asia.nikkei.com/Politics-Economy/Policy-Politics/Japan-s-pension-megafund-to-invest-in-US-infrastructure
14. 年金積立管理運用独立行政法人「本日の一部報道について」平成29年2月2日
http://www.gpif.go.jp/topics/2016/pdf/0202_news.pdf
15. 「安倍政権が年金数兆円をトランプに献上! 国民には運用失敗のツケを押し付け年間14万円も年金カットしておきながら」『リテラ』2017年2月4日
http://lite-ra.com/2017/02/post-2894.html
16. Kosaku Narioka, “Head of Japan Pension Fund Interested in U.S. Infrastructure Investments, GPIF president hopes Donald Trump’s administration will increase U.S. infrastructure market’s openness to foreign investors”, Wall Street Journal, Nov. 30, 2016
https://www.wsj.com/articles/head-of-japan-pension-fund-interested-in-u-s-infrastructure-investments-1480511899
17. 竹田忠「時論公論 『130兆円は誰のものか〜年金運用改革を問う』」NHK 2014年10月16日
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/201326.html
18. 「3共済年金、運用資産の共通指針 GPIFに追随」『日本経済新聞』2015年3月20日
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS20H76_Q5A320C1EE8000/
19. 「年金5兆円損失でも・・・『国家公務員共済』安全運転で運用益」『日刊ゲンダイDIGITAL』2016年8月2日
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/186852/1
20. Niall McCarthy「高齢者の『貧困率が高い国』1位韓国、日本4位」Forbes JAPAN, 2015年12月15日
http://forbesjapan.com/articles/detail/10540
21. ”Child poverty in Japan: Hidden blight Japan has more poor children than it though”, The Economist, May 12, 2016
http://www.economist.com/news/asia/21698687-japan-has-more-poor-children-it-thought-hidden-blight
22. Justin McCurry, “Japan’s rising child poverty exposes true cost of two decades of economic decline”, The Guardian, 17 Jan. 2017
https://www.theguardian.com/world/2017/jan/17/japans-rising-child-poverty-exposes-truth-behind-two-decades-of-economic-decline
この記事の翻訳が以下のサイトからアクセスできます。http://kobajun.biz/【-上昇を続ける日本の子どもたちの貧困率、この2/
23. みわよしこ「『生活保護なめんな』ジャンパーだけじゃない 小田原市の福祉不毛地帯ぶり」『ダイヤモンド・オンライン』2017年2月10日
http://diamond.jp/articles/-/117428
24. 「小田原『保護なめんな』ジャンパーは氷山の一角! 安倍政権下で横行する生活保護申請者への差別と辞退強要」『リテラ』2017年1月19日 
http://lite-ra.com/2017/01/post-2863.html
25. :「貧困率の増加について聞かれた安倍首相『日本は裕福な国』と反論」Huffington Post, 2016年1月19日
http://www.huffingtonpost.jp/2016/01/19/income-poverty-japan_n_9015616.html
26. Chitose Wada「安倍首相『子供の貧困は大きく改善した』→ネットから疑問の声『使ったデータは?』」Huggington Post, 2016年12月9日
http://www.huffingtonpost.jp/2016/12/08/shinzo-abe_n_13523450.html
27. :United Nations General Assembly, Human Rights Council, Thirtieth session, Agenda item 3, Promotion and protection of all human rights, civil, political, economic, sociall and cultural rights, including the right to development, “Report of the Independent Expert on the promotion of a democratic and equitable international order, Alfred-Maurice de Zayas”, 文書番号A/HRC/30/44, 2015年7月14日,
http://ap.ohchr.org/documents/alldocs.aspx?doc_id=25480
上記のURLから文書番号のEをクリックすると、英語版にアクセスできます。
28. ”Senator Bernie Sanders: The Trans-Pacific Trade (TPP) Agreement Must be Defeated”(TPPは無効化させなければならない)
https://www.sanders.senate.gov/download/the-trans-pacific-trade-tpp-agreement-must-be-defeated?inline=file
アメリカ上院議会予算委員会でのサンダース上院議員の発言
U.S. Senate, Budget Committee, Bernie Sanders, 2015/06/25
https://www.youtube.com/watch?v=kNm1WL89JSc
29. 山田正彦「TPPの次にもたらされる対米従属」『週刊金曜日』1120号, 2017年1月20日, pp.24-25.
30. 山下一仁「トランプ米大統領のTPP離脱と無策な日本—日本政府の役人は、保身よりも国益を重視した対応を行うべきだ」『WEBRONZA』2017年1月27日
http://webronza.asahi.com/business/articles/2017012500005.html
31. 全国保険医団体連合会 会長 住江憲勇「【談話】公的医療保険制度を守るため、今後も全力をあげることを誓い、TPP協定批准に強く抗議する」2016年12月15日
https://hodanren.doc-net.or.jp/news/teigen/161215_danwa_tpp_kogi.html
32. :「外資が水道事業で攻勢、仏ヴェオリアが松山市から受託」『日本経済新聞 電子版』2012年3月13日
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK1302A_T10C12A3000000/
33. :麻生太郎氏が2013年4月19日G20財務相・中央銀行総裁会議で、日本の水道を民営化すると発表。
https://www.youtube.com/watch?v=Qo9mq9PVae0
34. 参議院議員・山本太郎「内閣委員会質問『PFI法改正案で水道民営化について追求〜竹中平蔵主査、投資家にとって大きなビジネスチャンスとアピール』2015年9月11日
https://www.taro-yamamoto.jp/national-diet/5255
35. 「世界の水道事業民営化に逆風<料金の高騰><不透明な経営><質の低下>などの問題から再公営化する自治体が増えている 今、なぜ日本で・・・」『日刊ベリタ』2016年12月12日 http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201612121758571
36. 桑子かつ代、Yuriy Humber, Tsuyoshi Inajima「中国など海外勢が狙う日本の水、森林買収進む—温暖化で世界的に不足」『ブルームバーグニュース』2012年11月6日
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2012-11-05/MD04GT6K50XS01
37. 農林水産省「外国資本による森林買収に関する調査の結果について」平成28年4月27日
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/keikaku/160427.html
38. 平野秀樹、吉原祥子「外資買収に見る、日本の甘過ぎる土地制度—『消えた土地所有者』の解明を急げ—」『東京財団』2012年9月6日 
http://www.tkfd.or.jp/research/land-conservation/a00874
39. 「外資の土地買収実態、政府が調査に着手へ」『産経新聞』2016年10月7日
http://www.sankei.com/politics/news/161007/plt1610070005-n1.html
40. 「共同声明に『尖閣』を入れるため、安倍政権がトランプに差し出す日本の平和と主権」『リテラ』2017年2月12日
http://lite-ra.com/2017/02/post-2916.html
41. 「日米首脳会談、70%が評価 世論調査」『日本経済新聞』2017年2月13日
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS13H6U_T10C17A2000000/
42. :Frances Martel “70% in Japan Approve of Shinzo Abe’s Trump Visit; Communist Party Outraged”, Breitbart , 13 February 2017,
http://www.breitbart.com/national-security/2017/02/13/70-percent-approve-shinzo-abes-trump-visit-japan-communist-party-outraged/
43. Gallup Daily: Trump Job Approval
http://www.gallup.com/poll/201617/gallup-daily-trump-job-approval.aspx?version=print
44. 「安倍首相、来月ドイツ訪問『米大統領の考え伝えたい』」『朝日新聞』2017年2月14日
http://digital.asahi.com/articles/ASK2G3CV4K2GUTFK005.html