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英米に伝えられた攘夷の日本(6-3-2)

イギリス議会下院で政府が承認したアロー号事件対応とカントン攻撃に対する賛成、反対の議論が続き、グラッドストンが戦争反対の動議に賛成票を投じてほしいと熱弁をふるいます。

院の4日間にわたる議論はA4の印刷ページ数にすると、合計186ページに及びます。上院の動議提出者のダービー卿のスピーチ(6-2-1参照)は3時間だったと報道されていますので(注1)、他の戦争反対論の議員も同様だったと推測できます。議論の4日目、最終日には後に首相になるグラッドストン(William Ewart Gladstone: 1809-1898)がそれまでの議員たちの議論を引用しながら、自分の主張を展開しているので、きちんと聞いていることがわかります。動議に反論する議員の論に特徴的なのは、コブデンが批判したような「野蛮、半野蛮」という差別表現を使い、中国に対して武力で教えるのは正当だという趣旨の偏見に満ちたものが多いことです。

グラッドストンの議論の中で感銘を受けた箇所を抄訳します。グラッドストンはリバプールの裕福な商人の息子として生まれ、この議論の中でも自分は商人の出自だがと断って、議会で商人クラスを代弁するようなことはすべきではないと批判しています。政治の世界に入ったのは1832年で、1843年に保守党政権に入閣しますが、次第にリベラルに変わっていき、1859年に自由党に入党して、1867年に党首となり、翌年、首相となります。グラッドストンは4度首相となり、ヴィクトリア朝時代の中心的政治家とされています(注2)

グラッドストンの議論(注3)

  グラッドストンが、アロー号事件はイギリスによるアヘン密輸を拡大するために政府がでっち上げた事件で、アヘン密輸は拡大を続ける一方だと激しく非難しているので、アヘン密輸が本当に拡大しているか調べてみました。2012年の研究書(注4)によると、確かに第一次アヘン戦争以降、10年間で3倍、アロー号事件以降、更に増え続け、1900年までの最高は1879-80年の105,508チェスト(1チェスト=63.5kg,(注5))です。

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1. The New York Daily Times, March 13, 1857, p.2.
https://timesmachine.nytimes.com/timesmachine/1857/03/13/issue.html
2. ”William Ewart Gladstone (1809-1898)”, BBC
http://www.bbc.co.uk/history/historic_figures/gladstone_william_ewart.shtml
3. 「決議の動議。討議再開(4晩目)」庶民院、1857年3月3日、イギリス議会アーカイブ
”Resolution Moved, Resumed Debate (Fourth Night)”, House of Commons, 03 March 1857,
https://api.parliament.uk/historic-hansard/commons/1857/mar/03/resolution-moved-resumed-debate-fourth#S3V0144P0_18570303_HOC_28
4. Nick Robins, The Corporation That Changed the World: How the East India Company Shaped the Modern Multinational, Pluto Press, 2012.この本の1章”The Toxic Exchange”のp.157に表が挿入されています。この章は以下から無料アクセス可能です。
https://www.jstor.org/stable/j.ctt183pcr6.15?seq=1#metadata_info_tab_contents
5. チェストの換算は国連薬物犯罪事務所刊のWorld Drug Report 2008の第2章, “A Century of International drug control”の2.1 “Origins: The development of the opium problem in China”のp.174に換算が表示されています。この本は国連薬物犯罪事務所のホームページからアクセスできます。
World Drug Report 2008, United Nations Office on Drugs and Crime
https://www.unodc.org/unodc/en/data-and-analysis/WDR-2008.html