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英米に伝えられた攘夷の日本(6-4-2)

イギリス議会下院でカントンへの攻撃を非難する決議が可決され、パーマーストン政権が解散総選挙にします。その経緯を英米のメディアがどう報道しているか検証します。

アメリカ特派員のイギリス批判

1857年3月25日:第1面「解散は5月に行われる/イギリス政府の対中国政策の未来/中国からの重要なニュース」(注1)

『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』特派員:ロンドン(1857年3月6日)

アメリカ人特派員の記事はこの後延々と続き、イギリスの奇妙さ、パーマーストンのメディア操作の巧みさについて述べています。

カントン攻撃の是非を問うイギリス総選挙

 この時のイギリス総選挙の報道と同列でイギリス軍艦が長崎港入港を幕府の抗議を無視して強行したことが報じられていますが、ここでは見出しだけで内容は省略します。

1857年4月10日:第1面「イギリス総選挙はパーマーストン卿支持/日本の長崎港に強行入港/イギリスを調停すべき」

1857年4月13日:第1面「中国皇帝の降伏/日本の港へのイギリス船2隻の強行入港」

 イギリス戦艦の長崎入港に関するニュースは4月10日の内容に情報が追加されています。

1857年4月16日:第1面「英国の選挙/野党の敗北/パーマーストン卿が中国の事件についてスピーチ」

パーマーストンによる中国攻撃正当化

「パーマーストン卿が中国の事件についてスピーチ」

3月28日にパーマーストンが行なったスピーチを抄訳します。

イギリス・メディアの2種類の論調

「パーマーストン卿の勝利と野党の圧倒的敗北」『ロンドン・タイムズ』4月1日より

「反対の見解」『ロンドン・スター』4月1日より

訳者コメント:この選挙結果について確認しておくべきは、当時の選挙権には女性は含まれていないこと、「年価値10ポンド以上の家屋、事務所、店舗などの所有者又は借家人」を含む、都市中流階級中層部まで選挙権が広がった」(注2)時代だという点です。つまり、中国での貿易、特にアヘン密輸にかかわっている商人が多く含まれている可能性があるということです。

『タイムズ』がパーマーストン首相のスピーチを引用して、中国当局が「海賊の父親だと言われている老人を斬首する」と、ファクト・チェックもせずに、首相の言葉を引用報道している点は、安倍首相とNHKの関係(注3)に似ていると思わされます。この後の『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』では激化する中国関連のニュースが続き、2月14日香港発の特派員からの報道はイギリスの中国攻撃に批判的です。

1857年4月17日:第1面「中国皇帝が戦争に反対」

1857年4月22日:第1面「中国戦争/香港在住の外国人の不安/毒殺の企て/英国の増援艦隊/作戦計画/アメリカ艦隊の動き/海賊を追跡/ジャンクとの戦闘」(香港、1857年2月14日)
 『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』の特派員がアメリカ戦艦サン・ジャシント号に乗船して、中国での英米戦艦の動きを報道しています。イギリス海軍の戦闘に批判的な視点も垣間見えますので、重要と思われる点を抄訳します。

1857年4月23日:第1面「中国皇帝戦争遂行を決意」

1857年4月27日:第1面「ジョン・ボーリング卿、中国の野蛮性を語る」(香港 1857年2月24日)

 友人宛の書簡が新聞に掲載されたようです。毒入りパンを食べて中毒で苦しんだ状況を伝えた後、これが中国式戦争だと言って、まるで中国政府の仕業と言わんばかりのデマ(パークス領事が中国政府の関与を否定、6-3-3参照)を広めています。

訳者コメント:戦争を仕掛けた現地の英国政府代表が、抵抗する中国市民の報復を中国政府の戦争方法だとみなして、犠牲になった[真偽のほどはわかりません]イギリス人さえ賠償金の理由になる、それが自分の手柄だ、人類の利益に貢献していると豪語する心理になるのが、グラッドストンが警告した野生の欲望(6-3-2参照)に目が眩むということでしょうか。メディアの見出しに、日本に関しても「強制する」(force to)という語が盛んに使われるのも、弱者を征服することが文明の証という心理が働いているように感じます。

1 The New York Daily Times, March 25, 1857.
https://timesmachine.nytimes.com/timesmachine/1857/03/25/issue.html
2 森脇俊雅「サンドイッチ選挙区について:英国における議員と選挙区の関係」『法と政治』61(4), 2011-01-20.
https://kwansei.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_snippet&index_id=4281&pn=1&count=50&order=7&lang=japanese&page_id=30&block_id=84
3 河村能宏、鈴木友里子「首相『サンゴ移転』発言放送は妥当か NHKに疑問の声」『朝日新聞DIGITAL』2019年1月11日
https://digital.asahi.com/articles/ASM1C5D0YM1CUCLV00G.html
「<社説>首相サンゴ移植発言 フェイク発言許されない」『琉球新報』2019年1月9日
https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-858590.html