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英米に伝えられた攘夷の日本(6-4-1)

イギリスによるカントン攻撃について、当時のメディアがどう報道していたか、好戦的なパーマーストン政権が解散総選挙で圧勝したこととメディアとの関係を見ていきます。

『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』に掲載された中国関係の記事

 1857年前半の『イラストレイテッド ・ロンドン・ニュース』はアーカイブにも、デジタル・ライブラリー(米国大学図書館協同デジタルアーカイブ、ハーティトラスト・デジタル・ライブラリー)にも掲載されていませんが、『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』(『ニューヨーク・タイムズ』の前身)でロンドンの『タイムズ』その他の新聞がどう報道したのかを紹介しています。

1857年1月26日:第3面(注1)

訳者コメント:カントン攻撃の第一報を伝えた『ロンドン・タイムズ』(1856年12月30日, 6-1参照)が、150万の都市の攻撃によって膨大な人命が失われた可能性に言及し、攻撃が避けられなかったのかという疑問を呈した論調とあまりに違うので、最初の記者が左遷されたのかと思ってしまいます。「カントンにおける軍事行動は両サイドによる計画的な戦闘である」と断定する『タイムズ』が読者をミスリードしていることは、イギリス議会上院・下院での議論から明らかになります(6-2-1〜6-3-3参照)。

『タイムズ』の論調を見ると、安倍政権と日本のテレビ・メディアの関係のようなものが、パーマーストン政権と『タイムズ』に生じたのかと思わされます。当時の心あるジャーナリストやマルクスが政権とメディアの関係について指摘していることを後に紹介します。

1857年2月2日:第2面

1857年2月7日:第1面「カントンは破壊されるべき—中国戦争をロシアはどう見ているか」

1857年2月12日:第3面『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』への投書(2月6日)

投書者:アンドリュー・ハッパー(Andrew P. Happer)

訳者コメント:この投書者アンドリュー・ハッパーは同姓同名の別人でなければ、1884年から1891年まで中国で宣教活動をしたアメリカ人宣教師、Andrew P. Happer(1818-1894)で、カントン・クリスチャン大学を設立し、初代学長だった人物です(注2)。キリスト教の伝道者が中国に対する戦争を正当化し、抵抗する中国を傲慢だと批判し、武力で開国させることが人類のためになるとアメリカ人に主張するのは、この時期に日本でハリスが同じ調子で幕府相手に条約を強要していたことを考えると、イギリスだけでなく、アメリカも幕府が抵抗すれば、砲撃する用意があったことがわかります。

イギリス議会下院のコブデンの反戦動議スピーチの報道

1857年3月16日:第1面「下院で中国戦争について討論」

 『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』の特派員はコブデンのスピーチ(6-3-1参照)をかなり長く紹介しており、賛同の”Hear! hear!”や”Cheers”(喝采)も挿入されているので、好意的に聞いた様子が伝わってきます。そのいくつかを訳します。

訳者コメント:コブデンのスピーチの中で、1846年のカントン暴動とコンプトン氏に賠償金を払わせる困難さについて述べたと報道されているので調べたところ、カントン在住のイギリス人Charles Spencer Comptonが中国人に暴力を度々ふるい、中国人との暴動に発展して、複数の中国人が射殺され、負傷者も出たとされています。その裁判記録と領事館と当該イギリス人(複数)との文書のやり取りが25ページにわたって記録され、それが173年後の現在、米国大学図書館協同デジタルアーカイブ(注3)によって世界中に無料で読めるようにされていることに改めて感心します。

 尚、『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』が引用している『タイムズ』について、時には『ロンドン・タイムズ』、時には『タイムズ』と表現していることに注意が必要です。例えば、1835年3月16日第2面の記事の見出しはThe London Times in Reply to Mr. Cobden. From the Times, Feb.27.となっていますが、これは正式名称の『タイムズ』の通称として「ロンドン・タイムズ」が使われるからです。また、イギリスの『タイムズ』と『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』の省略形の『タイムズ』とを区別するためもあるのでしょう。

 『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』特派員によるコブデン・スピーチの要約記事と並列で掲載されたのは、ロンドンの『タイムズ』によるコブデン批判でした。以下に抄訳します。

1857年3月16日:第2面「ロンドン・タイムズがコブデン氏に反論」(『タイムズ』2月27日より)

『タイムズ』の好戦的論調

1857年3月21日:第2面「イギリス議会で中国戦争の討論閉会/パーマーストン政権の敗北」

 この日の報道は下院での議論の続きと評決結果を報道した後で、『タイムズ』のコメント記事を掲載していますので、抄訳します。

「中国問題で政府が敗北:ロンドン・タイムズより」

訳者コメント:このすぐ下に『ロンドン・スター』の記事が掲載され、パーマーストン首相賛美の文章が続きます。身が凍るようなメディアの論調ですが、フェイク情報(アロー号乗組員が処刑された等)を報道して、権力側に都合のいい印象操作をする手法は現在の日本を含めて行われていることを思い起こします。

1 The New York Daily Times, Jan.26, 1857,p.3 “Important Movement in Chinese Affairs”
https://timesmachine.nytimes.com/timesmachine/1857/01/26/issue.html
この後の出典は上のURLの日付を変えれば、アクセスできます。
2 Loren W. Crabtree, “Andrew P. Happer and Presbyterian Missions in China, 1844-1891”, Journal of Presbyterian History Society, vol.62, no.1 (Spring 1984).
https://www.jstor.org/stable/pdf/23328500.pdf?seq=1#page_scan_tab_contents
3 The Chinese Repository, Vol.15, 1846, pp.540-565.
https://catalog.hathitrust.org/Record/000541105
リストのうち、vol.15 (1846)をクリックするとアクセスできます。)