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トランプ米大統領

英米に伝えられた攘夷の日本(4-1)

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“Peter C. Perdue, “The First Opium War: The Anglo-Chinese War”

ペリー来航3年前の『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』に、アメリカが中国と日本に戦争を仕掛けるかもしれないという長文記事が掲載されています。 『日本とイラストレイテッド・ロンドン・ニュース—報道された出来事の完全記録1853-1899』(2006)には、日本関連の記事は1853年から始まったと書いてありましたが、その3年も前から日本関連の記事が掲載されていることを知りました。米国大学図書館協同デジタルアーカイブ、ハーティトラスト・デジタル・ライブラリーに掲載されている『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』の1853年前のものを調べたところ、1850年からJapanという名前がイギリス市民に広まっていたことがわかりました。の世界初の挿絵入り新聞の影響力がいかに大きかったは、その発行部数でも明らかです。創刊号が1842年5月で、その時の発行部数は26,000部でしたが、1855年には20万部に、1863年には31万部に達しました([ref]Terry Bennett (編), Japan and the Illustrated London News: Complete Record of Reported Events 1853-1899, Global Oriental, 2006.[/ref], p.ix)。当時の最も人気のあった日刊新聞『タイムズ』は7万部だったそうですから、『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』に掲載された記事が、少なくとも数の上でいかに影響力があったかがわかります。1854年時点で、長崎奉行所がこの新聞を持っていたことは2-4で紹介した通りです。 以下に『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』掲載の最も早い時期(1850年8月10日号、[ref]The Illustrated London News, vol.17, 1850 July-December.https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=mdp.39015031404612[/ref], pp.109-110)の記事を抄訳します。

カリフォルニアとアジアの隣人たち

 最初の部分はカリフォルニアのゴールド・ラッシュについて、筆者の苦々しい思いが書かれていますが、それが中国と日本に対する欲望というトピックにつながっていきます。
カリフォルニアの獲得とその後の宝の発見は野望と喧嘩好きな性質によってもたらされた。また、悪事と不正によってもたらされた。合衆国は弱い隣人に喧嘩をふっかけ、長い間ほしかった領土のうち、価値ある部分をその隣人が引き渡してからようやく、和平を結んできた。(中略)中国と日本には、長い間野次馬はいなかったが、今やブラザー・ジョナサン(Brother Jonathan=アメリカ)が隣人だ。メキシコに喧嘩をふっかけ、征服したあのブラザー・ジョナサンだ。欲深く、悪辣で、生意気なブラザー・ジョナサンだ。ブラザー・ジョナサンは金掘りに飽きたら、遅かれ早かれ、今度は新しい場所で、彼特有のエネルギーと好奇心を発揮させるために、この二つの閉鎖的自治体(close corporations)の様子を見に行くだろう。目的は「異人たち」(原文強調:”strangers”)がどんな人々か見ることと、もしできればビジネスをするために知り合いになることだ。そうでなければ、喧嘩の理由を見つけるためだ。
 この記事は社説のようにトップに掲載されていて、その下の挿絵とは関係ないのですが、アメリカが日本に戦争を仕掛けるという警告の内容なので、まるで、こうなるぞという含みが込められているようです。現在はドイツのシュレスヴィヒ=ホルシュタイン州とされているデンマークに隣接している地方をめぐって、当時のプロイセンとデンマークが戦った第一次シュレスヴィヒ=ホルシュタイン戦争の様子です。

カリフォルニアとアジアの隣人たち(続き)

 今やカリフォルニアの人口を占めているアングロ・サクソンの特徴を考えると、そして、排他的で傲慢だが、弱くて無気力な中国人と日本人を考えたら、喧嘩の方がずっと現実的で、ありえる結論だろう。複数の国家の大家族の中で、このような時には、この2国が長いこと維持してきた孤立という位置を守ることができるのは距離だけだ。この2国の場合、忙しく動き回るヨーロッパと、ヨーロッパの分派であるアメリカから身を守るセーフガード、唯一ではないがベストなセーフガードが突然取り払われてしまった。時代の壁が壊されたのである。そして、カリフォルニアは生命力と野望と大胆不敵さに溢れかえっており、汚い手を使うか、フェアな方法かで、「花のような人々」("flowery people")の品定めをして、この人々の国を世界の好奇心と文明の前に晒すのを、次の世代まで待つようなことはしないだろう。アメリカはすでにこの思いをめぐらせ始めた。そして、カリフォルニアから人がいなくならない限り、この方角から二つの偉大な帝国を開国させることは時間の問題だ。 アメリカもヨーロッパもこの行動を正当化することも、推奨することもしない。中国や日本との戦争はメキシコとの戦争と同じくらい犯罪的だ。しかし、遅かれ早かれ、この二つの帝国が譲歩して、周囲の生命力と行動力の世界と友人にならない限り、傲慢な無知と弱々しい愚かさに付き物の普遍的な運命を共有することになるだろう。北アメリカ大陸でアングロ・サクソンが、現在メキシコを所有しているスペイン人子孫の劣った人種を、まさに必要性から次第に追い出しつつあるように、より強い文明が打倒するだろう。 アメリカの偉大なエッセイスト、エマーソンが最近出版した『代表的人間像』[ref]R.W. Emerson, Representative Men: Seven Lectures, Boston, Phillips, Sampson and Cimmpany, 1850, pp183-184. https://archive.org/details/representativeme00eme[/ref]の中で、この問題を説明しているかのようだ。「物は一見あることをいっているようでも、実はそれと反対のことをいっているのだ。外見は不道徳でも、結果は道徳的なのだ。物は下降し、失望に正当な理由を与え、悪人を世に出し、正しい人間を打ちたおすように見える。しかもまことの目的は、殉教者だけではなく、悪漢たちの手によっても押しすすめられるのである。あらゆる政治闘争で悪漢が勝ち、社会は、その政府が変わるやいなや、一組の罪人たちの手からやっと救われたと思うのもつかのま、またもや別の組の罪人たちに引きわたされるように思え、そして、なるほど文明の進歩は重罪の連続ではあるけれども、——しかし全体をつらぬく目的は、何としてでも達せられるものだ。こうして歴史の流れのいたるところで、天は卑しく粗末な手段のほうを好んでいるように思われるのである。年をつうじ世紀をつうじ、悪の力をつうじて、さては玩具や原子をつうじて、ひとすじの偉大な慈悲の河が、さからいがたい勢いで流れつづけているのだ」[ref]酒本雅之訳、エマソン選集6『代表的人間像』(デジタル・オンデマンド版)、日本教文社、2014年、pp.147-148.[/ref]。このカリフォルニアの場合も、同じことになるだろう。 中国と日本の排他性と警戒心を最後に打ち破るのは非道徳的な手段かもしれない。しかし、その結果は、強者が弱者を征服すべき、あるいは光が闇を追い払うべきという絶対の必要性と同じに思える。この2国の排他性と警戒心はそれ自体が非道徳的であったから、物事が進む中で、彼らは不可避な罰を受けなければならない。それは、自然の偉大な道徳律に反する国すべてに天が命じたものである。1国家がうぬぼれのうちに閉じこもり、普遍的人間性の歩みや視線に対して領土を解放することを拒否する道徳的権利はない。どの国家の市民でも、一般の幸福のために制定された法律の運用から自分を孤立させることができないのと同じである。誰もが他人に何らかの義務を負っている。そして、どの国も文明の大家族内では、あらゆる他の国に対して行わなければならない兄弟としての義務がある。極東の文明はこの教訓をこれから学ばなければならない。カリフォルニアは、それを彼らに教える道具になるよう運命付けられているようだ。出来事の内部に次の出来事が組み込まれ、人間が各自の行動の道徳性をどう考えようとも、「偉大な慈悲の傾向」が世界の進歩と一般の利益のために、それを覆す。
 引用されているエマーソンの『代表的人間像』はこの記事掲載の年、1850年に出版されたエマーソンの7つの講演集で、引用箇所は「モンテーニュ:または懐疑論者」の章からです。一部中略していますが、ほぼ原文に忠実な引用です。ただ、『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』の最終文で引用されている「偉大な慈悲の傾向」は酒本訳では「偉大な慈悲の河」となっているのですが、原文は”a great and beneficent tendency”なので、「傾向」としました。 「閉鎖的自治体(close corporations)」という語は、1835年以前のイギリスの地方自治法からきていて、民主的に選ばれた政府ではなく、自己永続的な寡頭政治が支配する世界で、イギリスでは1835年の地方自治体法によって廃止されましたが、アメリカでは19世紀を通して、自己永続的組織を指す意味で使われたそうです[ref]Harwell Wells, “The Rise of the Close Corporation and the Making of Corporation Law”, Berkeley Business Law Journal, vol.5, issue 2, September 2008,https://scholarship.law.berkeley.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1055&context=bblj[/ref]。 「花のような人々」という表現は主に中国について「花の王国」などと、当時使われていたようですが、日本にも使われていたことが、アメリカ議会図書館のサイトに掲載されている写真のキャプション、「花のような王国の中心で:日本の奈良」[ref]"In the heart of the flowery kingdom, Nara, Japan", Library of Congresshttps://www.loc.gov/item/2011649586/[/ref]からもわかります。

非道徳的手段の結果は道徳的?

 この記事で一番驚かされるのは、アメリカが中国と日本に戦争をしかけるぞと、まるでイギリスは中国に戦争をしかけてはいないかのような論調です。『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』1843年3月11日号には「中国の貢ぎ物」と題して、戦争の賠償金として中国の純銀貨、20トンが届き、英国造幣局に運び込まれる様子が大きく掲載されています[ref]The Illustrated London News, vol.2, 1843, Jan.-June.https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=mdp.39015006972882[/ref]。 アヘン戦争の様子は、『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』1842年11月12日号に「広東川でネメシス[報復の女神]号が中国の戦争帆船を撃沈」[ref]Peter C. Perdue, “The First Opium War: The Anglo-Chinese War 続きを読む