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2018-02-27

英米に伝えられた攘夷の日本(4-1)

ペリー来航3年前の『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』に、アメリカが中国と日本に戦争を仕掛けるかもしれないという長文記事が掲載されています。

 『日本とイラストレイテッド・ロンドン・ニュース—報道された出来事の完全記録1853-1899』(2006)には、日本関連の記事は1853年から始まったと書いてありましたが、その3年も前から日本関連の記事が掲載されていることを知りました。米国大学図書館協同デジタルアーカイブ、ハーティトラスト・デジタル・ライブラリーに掲載されている『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』の1853年前のものを調べたところ、1850年からJapanという名前がイギリス市民に広まっていたことがわかりました。

の世界初の挿絵入り新聞の影響力がいかに大きかったは、その発行部数でも明らかです。創刊号が1842年5月で、その時の発行部数は26,000部でしたが、1855年には20万部に、1863年には31万部に達しました((注1), p.ix)。当時の最も人気のあった日刊新聞『タイムズ』は7万部だったそうですから、『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』に掲載された記事が、少なくとも数の上でいかに影響力があったかがわかります。1854年時点で、長崎奉行所がこの新聞を持っていたことは2-4で紹介した通りです。

 以下に『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』掲載の最も早い時期(1850年8月10日号、(注2), pp.109-110)の記事を抄訳します。

カリフォルニアとアジアの隣人たち

 最初の部分はカリフォルニアのゴールド・ラッシュについて、筆者の苦々しい思いが書かれていますが、それが中国と日本に対する欲望というトピックにつながっていきます。

カリフォルニアの獲得とその後の宝の発見は野望と喧嘩好きな性質によってもたらされた。また、悪事と不正によってもたらされた。合衆国は弱い隣人に喧嘩をふっかけ、長い間ほしかった領土のうち、価値ある部分をその隣人が引き渡してからようやく、和平を結んできた。(中略)中国と日本には、長い間野次馬はいなかったが、今やブラザー・ジョナサン(Brother Jonathan=アメリカ)が隣人だ。メキシコに喧嘩をふっかけ、征服したあのブラザー・ジョナサンだ。欲深く、悪辣で、生意気なブラザー・ジョナサンだ。ブラザー・ジョナサンは金掘りに飽きたら、遅かれ早かれ、今度は新しい場所で、彼特有のエネルギーと好奇心を発揮させるために、この二つの閉鎖的自治体(close corporations)の様子を見に行くだろう。目的は「異人たち」(原文強調:”strangers”)がどんな人々か見ることと、もしできればビジネスをするために知り合いになることだ。そうでなければ、喧嘩の理由を見つけるためだ。

THE SCHLESWIG-HOLSTEIN WAR——BLOWING UP OF THE SCREW STEAMER "VON DER TAN"(シュレスヴィヒ=ホルシュタイン戦争——スクリュー船フォン・デア・タン巡洋戦艦の爆破)

THE SCHLESWIG-HOLSTEIN WAR——BLOWING UP OF THE SCREW STEAMER “VON DER TAN”(シュレスヴィヒ=ホルシュタイン戦争——スクリュー船フォン・デア・タン巡洋戦艦の爆破)

 この記事は社説のようにトップに掲載されていて、その下の挿絵とは関係ないのですが、アメリカが日本に戦争を仕掛けるという警告の内容なので、まるで、こうなるぞという含みが込められているようです。現在はドイツのシュレスヴィヒ=ホルシュタイン州とされているデンマークに隣接している地方をめぐって、当時のプロイセンとデンマークが戦った第一次シュレスヴィヒ=ホルシュタイン戦争の様子です。

カリフォルニアとアジアの隣人たち(続き)

 今やカリフォルニアの人口を占めているアングロ・サクソンの特徴を考えると、そして、排他的で傲慢だが、弱くて無気力な中国人と日本人を考えたら、喧嘩の方がずっと現実的で、ありえる結論だろう。複数の国家の大家族の中で、このような時には、この2国が長いこと維持してきた孤立という位置を守ることができるのは距離だけだ。この2国の場合、忙しく動き回るヨーロッパと、ヨーロッパの分派であるアメリカから身を守るセーフガード、唯一ではないがベストなセーフガードが突然取り払われてしまった。時代の壁が壊されたのである。そして、カリフォルニアは生命力と野望と大胆不敵さに溢れかえっており、汚い手を使うか、フェアな方法かで、「花のような人々」(”flowery people”)の品定めをして、この人々の国を世界の好奇心と文明の前に晒すのを、次の世代まで待つようなことはしないだろう。アメリカはすでにこの思いをめぐらせ始めた。そして、カリフォルニアから人がいなくならない限り、この方角から二つの偉大な帝国を開国させることは時間の問題だ。

 アメリカもヨーロッパもこの行動を正当化することも、推奨することもしない。中国や日本との戦争はメキシコとの戦争と同じくらい犯罪的だ。しかし、遅かれ早かれ、この二つの帝国が譲歩して、周囲の生命力と行動力の世界と友人にならない限り、傲慢な無知と弱々しい愚かさに付き物の普遍的な運命を共有することになるだろう。北アメリカ大陸でアングロ・サクソンが、現在メキシコを所有しているスペイン人子孫の劣った人種を、まさに必要性から次第に追い出しつつあるように、より強い文明が打倒するだろう。

 アメリカの偉大なエッセイスト、エマーソンが最近出版した『代表的人間像』(注3)の中で、この問題を説明しているかのようだ。「物は一見あることをいっているようでも、実はそれと反対のことをいっているのだ。外見は不道徳でも、結果は道徳的なのだ。物は下降し、失望に正当な理由を与え、悪人を世に出し、正しい人間を打ちたおすように見える。しかもまことの目的は、殉教者だけではなく、悪漢たちの手によっても押しすすめられるのである。あらゆる政治闘争で悪漢が勝ち、社会は、その政府が変わるやいなや、一組の罪人たちの手からやっと救われたと思うのもつかのま、またもや別の組の罪人たちに引きわたされるように思え、そして、なるほど文明の進歩は重罪の連続ではあるけれども、——しかし全体をつらぬく目的は、何としてでも達せられるものだ。こうして歴史の流れのいたるところで、天は卑しく粗末な手段のほうを好んでいるように思われるのである。年をつうじ世紀をつうじ、悪の力をつうじて、さては玩具や原子をつうじて、ひとすじの偉大な慈悲の河が、さからいがたい勢いで流れつづけているのだ」(注4)。このカリフォルニアの場合も、同じことになるだろう。

 中国と日本の排他性と警戒心を最後に打ち破るのは非道徳的な手段かもしれない。しかし、その結果は、強者が弱者を征服すべき、あるいは光が闇を追い払うべきという絶対の必要性と同じに思える。この2国の排他性と警戒心はそれ自体が非道徳的であったから、物事が進む中で、彼らは不可避な罰を受けなければならない。それは、自然の偉大な道徳律に反する国すべてに天が命じたものである。1国家がうぬぼれのうちに閉じこもり、普遍的人間性の歩みや視線に対して領土を解放することを拒否する道徳的権利はない。どの国家の市民でも、一般の幸福のために制定された法律の運用から自分を孤立させることができないのと同じである。誰もが他人に何らかの義務を負っている。そして、どの国も文明の大家族内では、あらゆる他の国に対して行わなければならない兄弟としての義務がある。極東の文明はこの教訓をこれから学ばなければならない。カリフォルニアは、それを彼らに教える道具になるよう運命付けられているようだ。出来事の内部に次の出来事が組み込まれ、人間が各自の行動の道徳性をどう考えようとも、「偉大な慈悲の傾向」が世界の進歩と一般の利益のために、それを覆す。

 引用されているエマーソンの『代表的人間像』はこの記事掲載の年、1850年に出版されたエマーソンの7つの講演集で、引用箇所は「モンテーニュ:または懐疑論者」の章からです。一部中略していますが、ほぼ原文に忠実な引用です。ただ、『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』の最終文で引用されている「偉大な慈悲の傾向」は酒本訳では「偉大な慈悲の河」となっているのですが、原文は”a great and beneficent tendency”なので、「傾向」としました。

 「閉鎖的自治体(close corporations)」という語は、1835年以前のイギリスの地方自治法からきていて、民主的に選ばれた政府ではなく、自己永続的な寡頭政治が支配する世界で、イギリスでは1835年の地方自治体法によって廃止されましたが、アメリカでは19世紀を通して、自己永続的組織を指す意味で使われたそうです(注5)

 「花のような人々」という表現は主に中国について「花の王国」などと、当時使われていたようですが、日本にも使われていたことが、アメリカ議会図書館のサイトに掲載されている写真のキャプション、「花のような王国の中心で:日本の奈良」(注6)からもわかります。

非道徳的手段の結果は道徳的?

 この記事で一番驚かされるのは、アメリカが中国と日本に戦争をしかけるぞと、まるでイギリスは中国に戦争をしかけてはいないかのような論調です。『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』1843年3月11日号には「中国の貢ぎ物」と題して、戦争の賠償金として中国の純銀貨、20トンが届き、英国造幣局に運び込まれる様子が大きく掲載されています(注7)

 CHINESE TRIBUTE MONEY ENTERING THE MINT(中国の賠償金が造幣局に入る)、左中:SYCEE SILVER(馬蹄銀)、左下:GOLDEN ISLAND(銀がここで採掘されるという解説が記事にある)、右上:CHINESE DOLLARS(中国の銀貨)、右下:CHINESE MANDARINS(中国の役人)


CHINESE TRIBUTE MONEY ENTERING THE MINT(中国の賠償金が造幣局に入る)、左中:SYCEE SILVER(馬蹄銀)、左下:GOLDEN ISLAND(銀がここで採掘されるという解説が記事にある)、右上:CHINESE DOLLARS(中国の銀貨)、右下:CHINESE MANDARINS(中国の役人)

 アヘン戦争の様子は、『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』1842年11月12日号に「広東川でネメシス[報復の女神]号が中国の戦争帆船を撃沈」(注8)と題した挿絵が掲載されていますが、archive.orgにもハーティトラスト・デジタル・ライブラリーにも掲載されていません。(注8)で紹介したマサチューセッツ工科大学のサイトに掲載されているので、ご覧ください。「強国が弱国を征服するのは絶対の必要性」とまで言い切り、戦争は「非道徳的な手段」だが、賠償金は「絶対の必要性」だと自己弁護しているように聞こえます。マサチューセッツ工科大学のサイト(注9)が当時の多くの絵とともに、アヘン戦争がどのように始まったのかを記しているので、大要を紹介します。アヘンの密輸禁止の任務を負った欽差大臣[特命大臣]林則徐(1785-1850)が1839年3月に広東に行き、イギリスのアヘン密輸商からアヘンを没収し、同時にヴィクトリア女王にアヘンを中国に密輸させないよう依頼の書簡を送ります。21,306箱のアヘンが集められ、500人の作業員によって、アヘンの廃棄用に作られた巨大な溝に投げ込まれ、水・塩・石灰と混ぜてから、川を経て海に廃棄しました。この時に生じた有害な煙が、アヘンの焼却と誤解されて伝わったそうです。

 ヴィクトリア女王宛の書簡はイギリス国内で止められたそうですが、イギリス議会では激しい議論が起こり、「『自由貿易』の良さを理解しない反抗的帝国に対して戦争を」((注8), p.16)という意見と、アヘン貿易は非道徳的で、イギリスの評判に汚点を残すという意見が戦わされました。後に首相となる若き日のグラッドストーン(William Gladstone: 1809-1898)は、アヘンは有害商品だし、中国に対する攻撃は「不当」で、イギリスの永遠の不名誉となると大反対しました。そんな中、7月にイギリスの船員6人が酔っ払って、香港近くの1市民を殺し、イギリス側が中国の司法は信用できないと、引き渡しを拒否したことから、林則徐はイギリスとの貿易停止、イギリス人に対して食品を販売してはならぬなどの対抗措置をしました。9月にイギリスの戦艦2隻が中国の戦争帆船に発砲し、中国帆船3隻が破損しました。そして、宣戦布告が出ていないのに、11月にイギリス戦艦2隻が広東湾内の中国船29隻を攻撃し、中国側に打撃を与え、1840年1月31日にイギリスが宣戦布告してアヘン戦争が始まります。

 このアヘン密輸にはアメリカも大きくかかわっています。アメリカの貿易商だったラッセル商会が中国へのアヘン密輸で大儲けをし、その広東支社長だったウォレン・デラノ(Warren Delano: 1809-1898)は家族に宛てた手紙で、アヘン貿易は道義的には正当化できないが、「商人としては、フェアで正当で名誉ある商売」で、ワインなどの貿易と同じだと主張したそうです。イギリスでもアメリカでもアヘン貿易についての批判が高まると、ラッセル商会は手を引き、デラノは富豪となってアメリカに戻り、やがて娘がフランクリン・ルーズベルト(Franklin Roosevelt: 1882-1945)の父親と結婚したので、第32代アメリカ大統領の祖父になりました。デラノもラッセル商会の人々もアヘン貿易については口を閉ざしていたので、ルーズベルト大統領が祖父の資産の理由を知っていたか不明だそうです(注10)

メキシコ戦争・奴隷制・カリフォルニアのゴールドラッシュ

 「カリフォルニアとアジアの隣人たち」で強調されているカリフォルニアの人口増加・メキシコ戦争・ゴールドラッシュなどと中国・日本に開国を迫る英米との関連を理解したいと思い、まずアメリカによるカリフォルニア獲得とメキシコ戦争の評価について調べてみました。二つの面白い論文が見つかりました。一つは軍関係者による評価、もう一つは『カリフォルニア法律評論』に掲載されている「カリフォルニア獲得とアメリカ法の下での影響と発展」(注11)と題した論文です。前者は「カリフォルニア州ミリタリー・ミュージアム」サイトに掲載されている「メキシコ戦争とカリフォルニア:カリフォルニアの獲得」(注12)と題したもので、アメリカの軍人たちがメキシコに対して反乱を起こして次々と占領していった事例だけが述べられています。メキシコの被害など一切記されておらず、メキシコにはアメリカからの移民以外いないというかのようです。

強国が弱国に対して行う不当な戦争

 『カリフォルニア法律評論』掲載の論文は、1919年にカリフォルニア法曹協会の第10回年次総会におけるクッシングという人のスピーチ原稿ということですから、カリフォルニア州の法曹界の人々が聞いたと理解して読むと興味深いです。このスピーチの重要点をまとめます。当時の奴隷問題との関連が前面で強調されています。1821年から1836年にかけてアメリカ合衆国からテキサスに大量に人が移住し、みな奴隷を連れていたそうです。テキサスは1836年にメキシコから独立し、1845年にユニオン(北部)に加入します。そしてメキシコ戦争が起こり、その大きな理由は奴隷の労働力を使うための領土を獲得するためでした。メキシコを犠牲にしてアメリカの領土を拡大することがタイラー大統領(1841-45年第10代)とポーク大統領(1845-49年第11代)の公約で、南北の州の間の人口と影響力の均衡を保つことが目的でした。カリフォルニアとその他のメキシコ領土を奪う意図を隠すために多大な努力が払われました。

 メキシコ戦争の道徳的問題は今後も長く議論の対象になると述べて、何人かの政治家・知識人・軍人の評価を紹介しています。ウィルソン大統領(Woodrow Wilson: 1913-1921年第28代)は『アメリカ人の歴史』(A History of the American People, 1902)の中でメキシコ戦争について、「言語道断の侵略(訳者強調、以下同)と優れた戦い(fine fighting)の戦争」と書いています。卓越したイギリスの歴史家ゴールドウィン・スミス(Goldwin Smith: 1823-1910)はメキシコ人について、「支配的な悪から自分達を守ろうとした」と述べています。メキシコ戦争に自ら加わっていたグラント将軍[1869-1877年第18代大統領]はテキサス併合について、「私自身はこの方法について大反対で、この戦争は強国が弱国に対して行った、最も不当な戦争だと今でも思っている」と言っています。

 ところが、この次にクッシングが述べているのは、『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』の記事と同じような趣旨なのです。敵意に満ちた軍による領土の占領は道徳的正当性はないかもしれないし、最も残忍で下劣な方法で達成されるのかもしれないが、その結果は文明を最高に発展させ、拡大するかもしれない。そして、エマーソンが1844年に言ったという言葉を引用して、「何年も何世紀もたってから見ると、非常に違って見えると言ったエマーソンは正しい」と述べています。1846年にメキシコ戦争を非難した人々は後に、結果が手段を正当化したという意見に変わったそうです。

 メキシコ戦争の後、アメリカとメキシコとの条約交渉の時に、メキシコ法では奴隷制は存在せず、ニューメキシコもカリフォルニアも奴隷制のない自由な所だったから、敗北したメキシコは、割譲された領地で奴隷制を認めないという条項を条約に入れてくれと懇願したそうです。アメリカ側は不可能だ、そんな提案を大統領に伝えるわけにはいかないと拒否しました。

 1910年代の考え方がどんなものだったかわかるのは、カリフォルニア州の法曹界を代表するような人物が、1850年代から60年代について、「下等人種と呼ばれる人々に対する極端な偏見の時代から、その後、偏見は多少和らいだが、決してなくなったわけではない」と言いながら、「カリフォルニアの初期の歴史における外国人に対する不当な偏見と甚だしい不公正は卓越した人々によって辛辣なコメントの対象になってきた」(p.76)と書いていることです。この場合の「外国人」はアメリカ人が移住する前のカリフォルニアのもともとの住民を指しているので、やはり白人至上主義が染み込んでいるのだなと思います。「外国人に対する偏見」の例として、1850年代にカリフォルニアで殺人を犯したアメリカ人の裁判で、証人が中国人だったため、インディアンは証人として認められないとして無罪になった事例をあげています。「外国人」がインディアンとされたのは、コロンブスがアメリカ発見時にインド諸島だと思い、島民を「インディアン」と呼んだことから、「アジアの原住民や新世界の原住民に使われた」(pp.75-76)ことが理由だと書いています。クッシングが「原住民」(aborigines)と呼んでいるのは、中国も日本も含めて、発見した白人に対し、「発見」前の住民すべてでしょうから、「原住民」は「文明人」ではないという意味で、無視していい存在だという含みを感じます。

 クッシングはスピーチの中で、もう一つ本音を吐露しています。ゴールドラッシュ時の人口増加について述べた箇所で、1849年にカリフォルニアに移住した人数が「おそらく8万人」で、「1849年のカリフォルの場合、こんなに短期間にこれほどの人間の大洪水が無人の土地に流れ込んだ」(p.70)と言っているのです。カリフォルニアが「無人の土地」だと表現するのは、先住民族は文明人でないから存在していないと言っているわけで、オーストラリアをイギリス領だと宣言した理由と同じです。

メキシコ戦争の被害数

 カリフォルニアは本当に「無人の土地」だったのか疑問で調べたところ、1700年代後半にスペイン人が移住した頃、先住民族は275,000人だったと報告されており、ゴールドラッシュ後には30,000人に減少していたそうです(注13)。この調査の過程でとてもいいウェブサイトを見つけました。2003年にイラク戦争反対の歴史家たちが設立した「平和と民主主義を求める歴史家」のサイトです。「アメリカ合衆国や他の列強による、他国の内政を干渉するための侵略戦争や外国の軍事占領、帝国主義的活動に反対する」集団と説明されています。このサイトの「アメリカ合衆国・メキシコ戦争、1846-1848」(注14)によると、この戦争で戦ったアメリカ人兵士90,000人のうち、14,000人が死んだので、アメリカの「歴史において、死亡率が最も高いのはこの戦争だ」(注15)そうです。メキシコ側の数ははっきりしていませんが、戦った82,000人のうち、25,000人が死んだと推測されるので、死亡率はアメリカの2倍です。そしてこの数字にはメキシコの一般市民の被害者数は含まれていません。この死亡数の中で、戦闘中の死よりも、感染症による死亡数の方が多いのが特徴です。アメリカ側は死亡総数14,000人のうち、感染症などで死んだ数は12,229人とされています。メキシコ側は20,000人が感染症で死んだと推定されています。

 この戦争中にメディアが果たした役割についても述べられています。「戦争のコストと行為」の章で、1846年11月11日のフィラデルフィア『北アメリカ人』(North American)の社説で、「戦争というのは離れていれば人気がある。(中略)市民に、征服と軍事的栄光の代償について知ってもらおう」と被害の報道をしたと記されています。それでも、この戦争中、戦争を美化し、戦勝を祝い、司令官を英雄視する傾向が続き、「大虐殺」の新聞報道は売れたそうです。アメリカ人ジャーナリストや兵士の通信員は戦場におけるアメリカ兵の勇気を讃えましたが、戦争の現実——野営地で兵士を衰弱させる病気、足りない食料、脱走、メキシコ市民に対するアメリカ人の残虐行為、メキシコ人のゲリラなども報道しました。アメリカ兵の被害が増加するにつれ、市民の戦争に対する熱狂は急速にさめていったそうです。

 また、この戦争と黒人奴隷の関係についても述べています。グラント将軍(当時中尉)が参戦中にフィアンセに送った手紙から引用されていますが、南軍士官は自分の奴隷を連れていき、北軍士官は召使として雇ったこと、正式には奴隷が戦闘に登録されていないにもかかわらず、実際に戦い負傷した者もいたそうです。

日米は歴史から何を学んだのか?

 アメリカも日本も政権担当者たちは歴史の教訓から何を学んだのでしょうか。トランプ米大統領と安倍政権が学んだのは、21世紀型核兵器で先制攻撃をすることのようです(注16)。安倍首相は2018年2月14日の衆議院予算委員会で、以下の答弁をしています(注17)

国民の皆様にご理解いただきたいのは、専守防衛は純粋に防衛戦略として考えれば、大変厳しいものであるという現実であります。あえて申し上げたいと思うところでありますが、それは相手からの第一撃を事実上甘受し、かつ、国土が戦場になりかねないものでもあります。その上、今日においては防衛装備や精密誘導により、命中精度が極めて高くなっています。一度攻撃を受ければ、これを回避することは難しく、この結果、先に攻撃した方が圧倒的に有利になっているのが現実であります。また技術の著しい進展により、武力攻撃が行われる場合、その脅威が及ぶ範囲は侵攻してくる部隊の周囲数百キロ以上に及びうる状況となっています。こうした中で、現状では自衛隊は相手の脅威の中に入って対応せざるを得ないわけであります。これでは隊員の安全確保は困難であり、ひいては我が国の守りは困難となります。このような厳しい現実を踏まえれば、専守防衛の元で自衛隊員の安全を確保しつつ、我が国防衛に万全を期すため、相手の脅威に圏外から対応できる、スタンドオフ・ミサイルが必要不可欠と考えています。

 戦争回避のための外交努力はせず、憲法違反の先制攻撃を示唆する発言を国会でする首相は国民の命と財産を守る気などないようです。戦争経験豊かなアメリカの元国防長官は「北朝鮮への先制攻撃は無謀、日本も大惨事を免れない」(注18)と警告しています。同じ2月14日の予算委員会で、さらに驚くべき事実が立憲民主党の枝野議員によって明らかにされました。先制攻撃に使えるミサイルが不可欠な理由として、北朝鮮の脅威が危機的状況だからと主張したのに、日本政府は正反対のことを2017年11月末に表明していたのです。

 「自衛官が防衛出動命令に服従する義務がないことの確認を求める裁判」で、被告人の国は2017年11月27日(国難だと言って衆議院解散をした時期)に以下の文言を裁判所に提出していました。「現時点で存立危機事態は発生しておらず、国際情勢に鑑みても将来的に存立危機事態が発生することを具体的に想定しうる状況にはない、生じることや防衛出動命令が発動されることがおよそ想定できない。アメリカと北朝鮮との間で武力衝突が発生した場合という主張も、あくまでも抽象的な仮定を述べるものに過ぎず、上記主張をもってしても、将来武力攻撃事態や存立危機事態が発生するか否かや、その時期が具体的にいつであるかを何ら示唆するものでないことは明らかである」(注19)

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1. Terry Bennett (編), Japan and the Illustrated London News: Complete Record of Reported Events 1853-1899, Global Oriental, 2006.
2. The Illustrated London News, vol.17, 1850 July-December.
https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=mdp.39015031404612
3. R.W. Emerson, Representative Men: Seven Lectures, Boston, Phillips, Sampson and Cimmpany, 1850, pp183-184.
https://archive.org/details/representativeme00eme
4. 酒本雅之訳、エマソン選集6『代表的人間像』(デジタル・オンデマンド版)、日本教文社、2014年、pp.147-148.
5. Harwell Wells, “The Rise of the Close Corporation and the Making of Corporation Law”, Berkeley Business Law Journal, vol.5, issue 2, September 2008,
https://scholarship.law.berkeley.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1055&context=bblj
6. ”In the heart of the flowery kingdom, Nara, Japan”, Library of Congress
https://www.loc.gov/item/2011649586/
7. The Illustrated London News, vol.2, 1843, Jan.-June.
https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=mdp.39015006972882
8. Peter C. Perdue, “The First Opium War: The Anglo-Chinese War of 1839-1842, Hostilities”, MIT Visualizing Cultures.
https://ocw.mit.edu/ans7870/21f/21f.027/opium_wars_01/ow1_essay03.html
9. Peter C. Perdue, “The First Opium War: The Anglo-Chinese War of 1839-1842, Production & Consumption”, MIT Visualizing Cultures.
https://ocw.mit.edu/ans7870/21f/21f.027/opium_wars_01/ow1_essay02.html
10. Karl E. Meyer, “The Opium War’s Secret History”, The New York Times, June 28, 1997. 
http://www.nytimes.com/1997/06/28/opinion/the-opium-war-s-secret-history.html
11. Charles S. Cushing “Acquisition of California Its Influence and Development under American Rule”, California Law Review, Vol.8, Issue 2, January 1920.
https://scholarship.law.berkeley.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=4030&context=californialawreview
12. Mark J. Denger “The Mexican War and California: The Acquisition of California”, California Military History Online.
http://www.militarymuseum.org/AcqCA.html
13. Alysa Landry, “Native History: California Gold Rush Begins, Devastates Native Population”(先住民族の歴史:カリフォルニアのゴールドラッシュが始まると、先住民の人口を壊滅させた)、Indian Country Media Network, September 27, 2017.
https://indiancountrymedianetwork.com/history/events/native-history-california-gold-rush-begins-devastates-native-population/
14. Roger Peace “The United States-Mexican War, 1846-1848”
http://peacehistory-usfp.org/us-mexican-war/
15. このコメントはジョン・アイゼンハワー(John S.D. Eisenhower: 1922-2013, アイゼンハワー大統領の息子で歴史家)が1989年の著書『神から最も遠い:アメリカとメキシコの戦争1846-1848』(So Far from God: The U.S. War with Mexico, 1846-1848)の中で述べています。
16. ザカリー・フライヤー・ビグス「トランプ、先制核攻撃へ一歩——小型核弾頭開発を表明」Newsweek, 2018年2月5日 
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/02/post-9469.php
梅田啓祐「米核体制見直し 日本政府『高く評価』 米国依存鮮明に」『毎日新聞』2018年2月3日
https://mainichi.jp/articles/20180204/k00/00m/010/073000c
17. 衆議院ビデオライブラリ、衆議院予算委員会2018年2月14日開催、安倍首相の当該答弁は1:40:00から。
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=47783&media_type=fp
18. ジョン・ハルティワンガー「ヘーゲル元米国防長官『北朝鮮への先制攻撃は無謀。日本も大惨事を免れない』」Newsweek, 2018年2月1日
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/02/post-9445_1/php
19. 衆議院ビデオライブラリ、衆議院予算委員会2018年2月14日開催、2:45:00から。
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=47783&media_type=fp