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2018-12-05

英米に伝えられた攘夷の日本(5-1-1)

地球上で最も閉ざされた国」日本から「驚くほど優雅なデザイン」の家具などが1854年にロンドンで展示され、その挿絵が『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』に掲載されています。ジャポニズムの先駆けとも言える役割をこの新聞が果たしていました。

ジャポニズムの先駆け

本の開国に伴って、北斎漫画や浮世絵がヨーロッパに広まり、特に美術界でジャポニズムが一世を風靡しましたが、一般庶民におけるジャポニズムは日本風の家具や陶磁器、扇子、着物などを購入するという消費に結びついたとも言われています。イギリスにおけるジャポニズムの先駆け役を『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』が果たしたのではないかと思える記事が、1853年から掲載されています。日本の工芸・美術品が正式に多くの人に展示されたのが、1862年にロンドンで開催された万国博覧会とされていますから、その10年前に日本の工芸品が展示されたのです。

 「大勧業博覧会ダブリン」(Great Industrial Exhibition, Dublin)が1853年5月から10月末までアイルランドのダブリンで開催され、『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』でも連日のように内容について紹介されています。1853年6月4日号には「ジャパン・コレクション」((注1), p.450)という見出しで、「オランダ王室の日本コレクションが送られてきた。見事な細工の家具、着物、武具、傘、掛け軸、屏風、扇、盆、金銀銅貨のケースなど」と紹介されました。この公式カタログ(注2)には、オランダの国名の下に「オランダ政府の命により展示される日本品はヘイグ博物館の所蔵品」と書かれ、番号付きで95点挙げられています(pp.117-118)。そのうちの一つの番号に46点入れられているので、合わせると150点近く展示されたことになります。中に「日本で作成された日本地図」「金貨・銀貨・紙幣の入った箱」刀などがあり、解説に「いかなる武器も貨幣も地図も日本から持ち出すことは死罪として禁じられているので、これらがヨーロッパで目にできるのは非常に稀で、興味深い」(p.118)と書かれています。

1854年の日本博覧会

 『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』の1854年2月4日号に「日本博覧会」という見出しで以下の長い記事と絵が掲載されています((注3), p.98)。

 地球上で最も閉ざされた国の一つ、日本から珍しい品を積んだ貨物がロンドンに到着した。鎖国の扉を超えてきたこの国の製品の希少性は世界市民[the Citizen of the Worldと大文字で強調]がオランダ商人の卑劣さにムカムカしてきた思いを呼び覚ます。我々がこれまで慣れてきた彼らの密かな取引を通して、日本美術と産物の準見本を我々だけが受け取るのだ。

 このコレクションは先週月曜日にポールモール・イーストの水彩画家協会のギャラリーで一般公開された。これは我が国初の直接輸入と言われている。日本と毎年貿易を許されているヨーロッパで唯一の船はオランダ商人の船である。コレクションはテーブル・キャビネット・箱など、表面に日本の装飾(japanned upon wood)、中に真珠やエナメルなどが施された木製品;その極度の軽さと滑らかさと、絵がないことで、この国のパピエマシェとは区別され、そのデザインの特異性はほとんどの場合、驚くほど優雅だ。また、色のついたわらの非常に美しいデザインのものもある。これは日本独特の装飾で、本紙の版画に見られる鳥が彫られたキャビネットがその最高のものである。ブロンズはまれで、ほとんどがアンティークである。二つの最大のブロンズ壺はその形状において非常に純粋で、本紙のイラストレーションにあるテーブルの上のものだが、これはマルボロー・ハウスの実用芸術美術館が購入したということだ。また、非常に美しく装飾された小物入れ(glove box)と、本当に希少な赤と緑の漆塗りの箱数点、わらで装飾された小テーブルも購入したそうである。

 磁器も目だった展示品で、優美な形の花瓶や水差し、いくつかはグロテスクな性質のもの、カップなど、それらはすべて尋常じゃない軽さと透明さで、そのいくつかは非常に素晴らしい装飾がほどこされている;その多くは周囲を竹で見事に編み込まれ、カップの厚さが卵の殻ほどなことを考えると素晴らしい。本紙のイラストレーションの中のテーブルの上の高い花瓶、水差しとカップはこの展覧会を代表するものとして選ばれた。竹の編みかごの細工は素晴らしく、その形と模様には独創性がある。

 また、絹の着物と包装物もある。非常に柔らかく、軽く綿入れがされ、日本の貴族が着るものである。壁には日本の全階層の人々の絵がかけられている。男も女も、様々な衣装を着て、本紙のイラストレーションに描かれているのは、花嫁と扇のようなパラソルをさして歩く女性である。このパラソルはかの国でよく使われている。他にイラストレーションに描かれているのは、数種類の屏風のうちの一つで、人家と人々の生活習慣が描かれている。イラストレーションの背後にあるのは、象嵌細工のワードローブで、純粋の日本製である;ほとんどの家具の形は明らかにヨーロッパのものだが、装飾はすべて日本のものである。中央のテーブルが一番いい;テーブル上部は非常に優雅なデザインで、真珠がはめ込まれている;鉤爪足は斬新な形で、3匹のオオコウモリを表し、その羽が支柱を形作っている。支柱がサルと魚になっているテーブルもある;様々な種類のパズル・ボックス;一般用よりはるかに優れていると言われる醤油など。これらすべてが非常に珍しいコレクションを成している;そして、疑いなく、最近のアメリカ合衆国の日本遠征に対する興奮からして、これは非常に魅力的なものになろう。

The Japanese Exhibition, in Pall-Mall East(ポールモール・イーストの日本展)

 この日本製品展示会の説明の中で、”japanned upon wood”とJapanが動詞として使われているので、『ブリタニカ百科事典』第7版第12巻(1842)を調べたところ、”japanning”という項目で説明されていました。「ジャパニングとは木材の表面にニスや絵を施す技術で、日本の方法を真似たため、この名称が使われる」((注4), pp.522-524)と定義しています。

イギリスにおける大衆消費としてのジャポニズム

 ヴィクトリア&アルバート博物館の「ヴィクトリア時代の中国と日本への視線」(The Victorian vision of China and Japan、(注5))には以下のことが記されています。第一次アヘン戦争で中国は「簡単に負かされ」、1842年の南京条約で開港を余儀なくされ、香港を割譲され、他の西欧列強との条約も続いて、「特に商人たちが中国市場へのアクセスを要求した」という状況でした。中国で成功したイギリスは日本との条約に動き出しましたが、「この頃、日本は1640年代以降鎖国政策を維持していたため、はるかに神秘的な国だった。1853年にアメリカ艦隊が日本に到着して、日本の港を海外列強に開港せよと要求した。日本は諸手を挙げて西洋を歓迎したわけではない。西洋との接触の初期は外国人襲撃が何件もあった。しかし日本は中国に起こったことを知っていて、西洋列強に向かっても勝ち目はないと知っていた。それでエルギンは武力に頼らずに条約交渉をすることができた」。

 さらに、イギリスにおけるジャポニズムの一端を以下のように解説しています。

日本製のものが幅広く、多くの人の目に触れたのは1862年のロンドン万国博覧会が初めてだった。展示品のほとんどは在日本イギリス公使のラザフォード・オールコックが集めて展示したものである。この展示はすぐに批評家たち、一般大衆、デザイナーに大好評を博した。批評家たちはデザイナーと制作者たちが日本のものを見習って、イギリスのデザインを改良するよう促し、イギリス内の改革の必要性を主張した。(中略)19世紀を通して、中国のものはイギリスに輸入され続けたが、イギリスに旋風を巻き起こしたのは日本のものだった。日本専門の販売業者や店によって大量に輸入され、販売された。1875年にアーサー・リバティーによって創業されたリバティーもその一つである。日本のものなら何でもほしいという流行が起こり、中流階級の家の居間に日本の扇やティー・ポットを置いていない家はないというほどだった。この頃起こっていたデザインの未来に関する議論に対する有力な解決策は、新しくて非常に異なる日本の美的感覚が提供した。

 
 このように、『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』の1854年2月4日号の解説と絵は、イギリスにおけるジャポニズムの先鞭をつけたと言えるかもしれません。

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1 The Illustrated London News, vol.22, Jan.-June, 1853. Hathi Trust Digital Library.
https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=chi.60765664
2 Official Catalogue of the Great Industrial Exhibition (in Connection with the Royal Dublin Society), Dublin, Exhibition of Art and Art-Industry, Royal Dublin Society, 1853.
https://archive.org/details/officialcatalogu00exhi
3 The Illustrated London News, vol.24, Jan-June, 1854. Hathi Trust Digital Library.
https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=mdp.39015049891974
4 Encyclopaedia Britannica or Dictionary of Arts, Sciences, and General Literature.
Seventh Edition, with Preliminary dissertations on the History of the Sciences, and Other Extensive Improvements and Additions; Including the Late Supplement. A General Index, and Numerous Engravings. Vol.XII. Adam and Charles Black, Edinburth; M.DCCC.XLII, 1842. Hathi Trust Digital Library. https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=chi.28490948
5 “The Victorian vision of China and Japan”, Victoria and Albert Museum
http://www.vam.ac.uk/content/articles/t/the-victorian-vision-of-china-and-japan/