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2019-09-29

英米に伝えられた攘夷の日本(6-6-7)

1852年10月〜11月の『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』に「アメリカの捕鯨産業に協力しない日本は征服すべき」「アメリカは良心の呵責なく、抑制もなく、日本を完全に征服する」という主旨の記事が掲載されます。

 10月1日に「日本」と題した非常に長い記事が掲載されます。それまでの批判記事とは対照的にアメリカの都合に従わない日本は酷い国だという論調と、これから征服する国はどんな国かの情報です。主要点を抄訳します。

  • 1852年10月1日(NYDT):「日本—国の性格—世界との関係—合衆国の遠征」(注1)

個人の閉じこもりは個人の自由で、誰も問題にしない

 自由貿易と互恵の現代において、世界の貿易に対して自国の港を閉じたままの国、外国人の到来[advent:キリスト降臨の意味も]を禁じるだけなく、自国民が不運にも他国に行った場合、帰国の要望を認めない国というのはそれ自体奇妙なことだ。個人が世界から閉じこもることを選択する場合は、何の咎めもなくそうすることができるのは間違いない。このことについては誰も問題にしない。このような人は風変わり(strange fish)とみなされ、隣人たちは通り過ぎるだけだ。

10万平方マイル、3千万の人口の国が閉じこもるのはけしからん

 しかし、10万平方マイルの地域の国、3千万の人口の国がこのようなことをして許されるかは別問題だ。このようなことを、アメリカ領の真向かいにあり、合衆国の大西洋岸全体よりも広い海岸を持つ日本が今までしてきた。この海岸をアメリカの捕鯨船が年数百隻も通っているのである。緊急事態でも日本は援助を拒否するだけでなく、貴重な船が日本の不親切な岸に漂着した場合、乗組員を逮捕し、虐待し、殺し、他の者に日本に上陸させない警告とするために、カゴに閉じ込めて見世物にさえするのだ。

日本遠征の目的は日本に文明の理性を強制すること

 このような国は文明の進歩において奇妙な光景となっている。このような状態がいつまで許されるのかは、日本に「理性に服す」(原文強調”listen to reason”)ことを命じる目的で艤装されたアメリカの遠征の結果次第である。過去12ヶ月の期間中の1時期に、サンドイッチ諸島[ハワイ]に停泊したアメリカの捕鯨船は12隻ほどいて、操業の現場から相当の距離である。彼らがもっと近く、便利な日本の港に入港しないのは、その結果を恐れてという理由以外にはない。(中略:この後地理と気候、豊かな国という記述)

 この国の住民は外国人にこの国の恵みを受けさせないと固く決心しているようだ。彼らは互恵の原則は全く知らない。自由貿易だけでなく、あらゆる貿易を完全に否定している。隣人たちとの取引も持たず、中国皇帝の甘言でさえ成功しなかった。その人を寄せ付けない海岸に日本が認めた国が地球上でただ1国あるが、その通商さえ限定されている。毎年2隻のオランダ船が認められているが、その条件があまりに屈辱的なので、ヨーロッパの文明国で従う国があるということ自体が驚きである。

この後に続くのは要約すると次の事柄です。通商が自由な時代があったが、ポルトガルのイエズス会の行動のせいで、16世紀末から17世紀初頭に制限された;イギリスも通商を許されていたが、鎖国で止んだ;アメリカの通商の試みが不成功に終わったこと。唯一許されたオランダの代表が将軍に謁見し、退出する際の振る舞いが「額を床につけてお辞儀をし、一言も発せずに、カニのように這って戻った」と記された後、西洋世界は蒸気船と鉄道で繋がった今と、以下の記述が続きます。

平和的な日本は強力な文明国の最初の攻撃の餌食に簡単になる

これらの国々が自分たちに課した拘束を続けることはもはや不可能だと考える。欧米の文明が彼らのドアそのものを激しく叩いている時に、その波が入ってくるのを拒絶することはできるはずがない。その結果が彼らにとっても有益だと明らかにされたら、拒否を続けることはしないだろうと思う。数千人の中国人がカリフォルニアにたどり着き、新世界の植民者の中でも、最も勤勉で繁盛した人々だ。彼らの成功の知らせは日本人に影響を与え、改善に寄与するだろう。彼らの軍事力がどんなものか、もちろん我々には直接確かめる手立てはない。日本は中国の場合以外、外国との戦争の経験が全くないことを考えると、そして、我々が知る限り、日本政府はいつも平和的制度を続けてきたので、強力な文明国が日本の岸を襲ったら、最初の一撃で簡単に餌食となることは疑いない。

 最後の文には、欧米文明は平和な国を襲うことを自明のこととしている含みがあるようです。この後はさらに詳しい日本の地理、気候、政治機構、社会制度、服装、軍事的側面、刑罰の厳しさ、自白を引き出すための残酷な拷問、男尊女卑の風習、住居等々について述べられています。

 この風変わりな人々について冷静に検証すると、この国よりも高度な文明の国々が真似をしても良い多くの徳がこの国にはあることがわかる。彼らは穏やかで、つましく正直である。酔っ払いが見られることが最も不名誉な行為の一つで、これは日本人の罪であろう。一見すると、彼らが鎖国を維持する決意のように見えるのは信用ならないものに思える。しかし、彼らが接した唯一のヨーロッパ人がキリスト教の衣をまとって、この平和で無害な人々に対して犯した恐ろしい行為の数々を考えると、彼らの平安を傷つけ、日本政府の平和的性格をかき乱すためだけに入国した外国人から受けた過去の経験から、全ての外国人を日本の岸から除外する不当な仕打ち決断することに驚く根拠はほとんどない。

 この国の教育に関しては、この島国の人々は世界で最も人智が開けている。ほぼ全員が読み書きができ、国法を完璧に知っている。国法は主な町や村の公共の広場に大きな立札によって知らされる。

 この後は農業、工芸品などの技術が高いこと、世界の情勢については一般人は知らされず、政府は中国とオランダを通してヨーロッパの政治状況の情報を入手していること;ロシア政府が平和的意図しかないと日本を納得させようとしているが、北から彼らを征服する国が来るという古代からの伝統で不安に感じていること;日本語の書き言葉は中国語をもとに48文字の主に音節シンボルからなっていることなどが述べられています。

アメリカは良心の呵責なく、抑制もなく、日本を完全に征服するだろう

十中八九、この国の状況は急速な変化に見舞われるだろう。この国に対して行われるアメリカの遠征が成功を保証するようにと計算された規模なのかどうか、我々には確かめる手段がない。しかし、次のことは疑いもない。ブラザー・ジョナサンは良心の呵責もなく、抑制もないそのエネルギーで、日本の完全な征服を達成するだろう。(原文は斜体で強調)日本を手に入れたら、この国をどうするのかは解決すべき問題として残る。この国の気候、火山、地震など今まで述べてきた興味ある自然現象は、アメリカ人の体質に合いそうもない。それはともかく、間もなく大きな素晴らしい変化が起こるに違いない。ビルマ帝国が我が国の領土に併合されたら、日本は二つの恐るべき敵に挟まれるから、そのいずれかの国に日本は屈服せざるを得ない。これがサクソン人がアジア人と衝突したら必ず起こることだ。西洋は東洋に移され、東洋は、中国人のカリフォルニア移住を通して、西洋に移される。インドとその東部列島は我々のものになった。中国の平和的屈服はすでに始まった。オーストトラリアには広大で肥沃な土地がある。我々の目の前に果てしなく広がる光景は何と輝かしい未来だろう。(中略)

 [アメリカは]アングロ・サクソンの祖先の豪力と鉄の意志と[伝統から]自由な組織をもってすれば、将来どんな国家が生まれてくるかわからない。蒸気という強力な手段に助けられれば、この素晴らしい未来の進歩や限度を推測するのは無駄だろう。我々の予想が実現するのは何年も先のことだろうし、現在の世代が忘れられる頃だろう。しかし、これらの国に列強の病原菌が存在し、「植民者」としてここに送る国の名声と威信が失われた頃、偉大で自由な国として繁栄し、擦り切れ疲れ果てた世界の羨望と賞賛となるだろう。

解説:この記事は署名はありませんが、最後にThe United States Magazineと記され、まるで記事全部の出典がこの雑誌だというかのようなので、確かめてみました。The United States Magazineという雑誌はThe United States Magazine and Democratic Review, またはThe Democratic Reviewという雑誌名に変わっていますが、確かに1852年4月号に同じ”Japan”という題名の長文の論文(注2)が掲載されています。署名はありませんが、内容からイギリス人によるアメリカ評の趣があります。引用者の『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』の記事のうち、日本の歴史等は『デモクラティック・レヴュー』の要約のようですが、『デモクラティック・レヴュー』の以下の驚くような意見は省かれています。

  • 我々の義務と宿命は世界中、特に中国と日本というモンゴル系国と通商を行うこと(p.321)。
  • 我々の立場は人類によって所有されている交通・貿易に対する自然権に関わること(p.322)。
  • 日本の樟脳、銅、銀;瀝青質の石炭の山は太平洋の蒸気航海に大きな補助であり、商業の幅広いシステムにとって不可欠になるものだ。(中略:杉材木、お茶にも言及)これらすべてが太平洋と大西洋の市民の企業に対する報償の手段として即刻利益をもたらすものを提供する(p.332)。
  • この風変わりな国の内陸にどんな豊かな資源があるかは誰も予測できない。

 最後の結論では、日本の社会制度がいかに酷いかを述べ、こんな国を征服するのは正当だと導くようです。

  • 残酷な封建制度が農民を抑圧し、屈辱的な隷属が貴族たちに足かせとなっており、商人は完全に軽蔑されている。
  • 恣意的な法律と残虐な法規が農業を阻害し、ゴロツキ僧侶たち、腐敗した警察、千もの堕落した迷信などが社会・政治生活全体を構成している。
  • かつては高貴で賢明で独創的な国だったのに、ここまで落ち込んでしまったのは同情を催さずにおかない。理性・文明・進歩・宗教が日本を通商に開かせることを要求している。

 『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』の記事は、この雑誌から引用したような体裁で、異なる意見を表明しているような感じです。そうせざるを得ないほど、日本征服の声が強まっているということでしょうか。

  • 1852年10月20日(NYDT):「海軍—日本遠征—メキシコ境界線」ワシントン発、10月19日(注3)
     「日本への遠征」(原文強調)は、我が国がこの地域で行う事業の展開に商業的関心を持っている全ての国の笑い者になってきたが、何か現実的な結果が得られそうな形を見せ始めた。戦列艦1隻、世界一速いとは言わないまでも、最速の蒸気戦艦2隻、6隻のフリゲート艦とスループ船はどこにいても立派な艦隊になるだろう。この艦隊が日本の海に出現すれば、太陽と月のいとこに自分たちの地位が地上にあると悟らせるには十分すぎるだろう。
  • 1852年10月23日(NYDT):「探検遠征隊」(注4)
     発見の航海というのはいつも利益をもたらす。国内と、遠い日本と北太平洋を探検・調査する様々な企画は、この地域を詳しく知ることになりそうだ。(中略)アマゾンの探検もその「可能性」(原文強調)の最終段階に入っている。(中略)我が国が送った冒険家たち全員が事実と作り話の積荷を持って戻ってきたら、偉大な栄光が我が国の旗に加えられる。(中略)アマゾン探検の結果がもたらす商業的利益を過大評価することは不可能だ。日本に関しては、あの国にアクセスして、財産を築こう。
  • 1852年11月19日(NYDT):「太平洋探検遠征隊—その重要性、目的、装備」(注5)
    『ナショナル・インテリジェンサー』[ワシントンD.C.の新聞]から
     1月1日頃に太平洋の島々と遠海で重要かつ困難な義務を果たすための遠征隊がノーフォーク港から出発する。その目的は中国とカリフォルニア間のルートである中国と日本の海と、ベーリング海峡地域の北太平洋を調査することである。これら比較的知られてない海域における商業事業の検討を行うためにタタール[間宮]海峡にも上がって行くかもしれない。北方では捕鯨に対する我が国の関心を促進するために調査するという広い分野の行動もあるだろう。

     サンドイッチ諸島はこの遠征の船が集合する主要地となる。(中略)この遠征は次の戦艦で構成される。[艦長の名前は省略します]

  1. スループ戦艦ヴィンセンス号、乗組員175人。今、ニューヨークに停泊中。
  2. 蒸気プロペラ船ジョン・ハンコック号、乗組員60人。現在ボストンで修理中。
  3. ブリッグ船ポーパス[イルカ]号、乗組員60人。現在ニューヨークに停泊中。
  4. 補給船パイロット号、乗組員20人。

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1. ”Japan—Character of the Country—Relations with the World—The United States Expedition”, The New York Daily Times, October 1, 1852, p.3.
https://timesmachine.nytimes.com/timesmachine/1852/10/01/issue.html
2. ”Japan”, The Democratic Review, vol.30, no. CLXVI, April 1852, pp.319-332. Hathi Trust Digital Library. https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=umn.31951000899478
3. ”The Navy—The Japan Expedition—The Mexican Boundary”, The New York Daily Times, October 20, 1852, p.1.
https://timesmachine.nytimes.com/timesmachine/1852/10/20/issue.html
4. ”The Exploring Expeditions”, The New York Daily Times, October 23, 1852, p.4.
https://timesmachine.nytimes.com/timesmachine/1852/10/23/issue.html
5. ”Pacific Exploring Expedition—Its Importance, Object and Equipment”, The New York Daily Times, November 19, 1852, p.3.
https://timesmachine.nytimes.com/timesmachine/1852/11/19/issue.html