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2020-04-11

英米に伝えられた攘夷の日本(6-7-4-3)

「パナイ号事件」報道2日目(1937年12月14日)の『ニューヨーク・タイムズ』にはアメリカ議会での議論と全国の新聞の社説が紹介されています。まだ日本との戦争の時期ではないという抑えた論調が大勢を占めています。

『ニューヨーク・タイムズ』のパナイ号事件報道2日目:1937年12月14日 続き(注1)

アメリカ議会での議論

  • 政権が今日パナイ号事件に関する全ての議論を和らげようとあらゆる努力をしている一方で、下院の反応は個人的好みに大きく支配されていた。極端な反戦論者はアメリカ軍の部隊と船は中国の戦闘地域から撤退すべきだと言う。他の極端な意見の議員は、あらゆる所でアメリカ人は適切な方法で保護されるべきで、他国政府のテロリスト的作戦(訳者強調)に脅されることを拒否せよと言った。
  • 下院議長のレイバーン氏:我々の感情がどうであれ、呟きや行動でさらなる不安や不幸を加えることはすべきではないだろう。我々が中立のまま、戦争に巻き込まれないためには、責任ある地位の我々が非常に注意し、大統領に任せるべきである。少なくとも議会が何らかの強硬手段を取る準備ができるまでは。
  • 外交委員会議長、ピットマン上院議員:これは日本軍の無責任な将校たちが外国人を怖がらせ、外国軍隊を追い出そうとした意図的企みだ。彼と同じ考えの議員たちは、日本の若い将校たちがテロリスト的戦術が正当化されると感じたのかもしれない。日本政府が1つ1つの出来事について遺憾の意を表明するのは全く満足いかない。日本政府は現場の陸軍・海軍の将校たちに幅広い裁量権を与えるのが慣例だ。このような暴挙の責任は数人の上級将官にあり、彼らの名前を明らかにし、処罰すべきだ。このような処罰によってのみ、日本側は誠意を示せるし、一連の国際法違反を止めることができる。
  • ユタ州のトーマス上院議員:もし日本が責任を認め、謝罪したら、合衆国にできることは何もない。間違っていたと認めた国と戦争する理由はない。
  • マッカラン上院議員:我々はずっと前に中国から手を引くべきだった。[アメリカ]政府が通告したらすぐに合衆国市民は出国すべきだった。残れば、日本は全アメリカ人を危険にさらす。
  • ニューヨーク州のフィッシュ下院議員:アメリカ国民はいかなる時にもヒステリカルになって、陣太鼓を鳴らす[戦争を煽る]べきではない。我々は全ての事実を[把握するまで]待つべきだ。脅しや戦争の話をして危険な状況下で火に油を注ぐようなことをしてはならない。我々は全額賠償と謝罪を要求し、極東におけるアメリカ市民の生命と財産の完全保護を主張しなければならない。我が国が軍艦10隻を中国の川、特に戦闘地域に保持していると政権を非難する時期はとっくに過ぎた。私は何度もこの行為に抗議してきた。しかし、この不幸な事件を平和的に解決する間は、我が国の船が砲火を浴びようと、威圧によろうと、撤退させるべきだと提案するつもりはない。

第19面

アメリカ各紙の社説

  • ロサンジェルス「『波風を立てる』ことへの警告」

 これが故意で意図的だったという証拠がなく、日本政府がすぐに責任を認め、遺憾の意を即刻表明し、賠償も確約したので、衝突なしに過ぎていく可能性が高い。

パナイ号は合法的に揚子江にいた。日本が十分知っていた58年前の協定に決められていたのだ。日本が中国に宣戦布告したとしても、中立国の財産と国民に損害を与えないよう特別な注意を払う義務がある。日本はまだ宣戦布告していないので、交戦権は与えられていない。日本の司令部の誰かが許しがたい不注意を犯したようだ。パナイ号と乗客と乗組員は罪のない傍観者的立場だった。戦争の時なら自分で用心しなければならない。しかし、これは戦争ではない。これは単なる討伐だ。討伐部隊は間違った人々を罰しないよう細心の注意を払う義務がある。

  • カンサス・シティー「外務省しか話していない」、スター紙より

 日本は全責任を認めた。日本は謝罪した。しかし、そう言うのは東京の外務省だ。中国内の軍最高司令部ではない。陸軍と海軍大臣は天皇に対してだけ責任があり、文民政府に対してではない。この2,3年何度も軍当局は東京の文民高官の平和的融和的な声明に侮蔑しか示さなかった。

 (中略)現状では国務省が完全な情報を入手し、日本政府が事件の深刻さが正当化する対策を取るか注視し、特にこのようなミステイクを繰り返さない効果的な手段を日本政府が採るか見ることが肝要である。

  • アリゾナ州フェニックス「戦争について話すのは早すぎる」
  • アイダホ州ボイシ「戦争には不十分」

第20面

  • 合衆国砲艦パナイ号乗船中の将校たち(10人の顔写真掲載)

第21面

  • パナイ号76人のうち61人が救助された—砲艦の乗員1人とイタリア人作家が死亡—将校2人負傷—タンカーのヨーロッパ人船長2人と中国人乗員81人行方不明
  • 須磨はパナイ号砲撃を「間違い」と呼ぶ—外交官は悲しみと懸念を表明—日本が損害賠償することを確信、デトロイト発、12月13日

 須磨弥吉郎(1892-1970)、ワシントンの日本大使館の2番目の権力者はここ[デトロイト]の経済クラブの昼食会で「日本の現在の立場」という題でスピーチをした。約1000人の聴衆は、日曜のアメリカ砲艦パナイ号の砲撃と沈没について須磨氏が何を言うか注目した。しかし、彼は用意したスピーチを読み上げ、そこにはこの事件について何も述べられていなかった。

 しかし、新聞記者の前で須磨氏はアメリカ船の砲撃は「不幸な間違い」(原文強調)で、日本政府が損害賠償すると確信していると言った。(中略)彼はまた、なぜ日本の飛行機がアメリカ砲艦とタンカーを中国船と間違えたかわからないと付け加えた。パナイ号に乗っていたアメリカ公使館の人々の安否を非常に心配していると言った。須磨氏が南京の総領事をしていた11年間にアメリカ公使館のこれらの人々をよく知っていたと言う。

 須磨氏は質問に答えて、日本は中国の指導者たちに援助の偽りの希望を与えないため、そして、中国の日本軍の中で反感が強くならないように、九カ国条約会議に参加するのを控えたと言った。

第23面

  • 東京の新聞は事件をほとんど語らない(訳者強調)—パナイ号撃沈で我々をなだめ、「不運な事件」と呼ぶ、ヒュー・バイアス、東京発、12月14日

 合衆国砲艦パナイ号の撃沈に対する日本人の反応について何も報道できない。アメリカ人に知らされた事件の報道と違って、ここ[東京]では事件の大きさが違うのだ。朝刊は昨夜外務省が発表した短い広報を報道しただけだ。日本の新聞は最近熱心に、日米関係が殊の外良好だと報道しているので、パナイ号事件の報道はこの印象を損なわないような報道方法だ。朝日新聞は短い社説で、日米には友好な感情が続いているので、この事件は計画的ではないと主張している。社説で扱ったのは唯一朝日新聞である。

小見出し:「深刻に認識されている」

 砲艦パナイ号の撃沈はここ[東京]で英国船レディーバード号の攻撃よりずっと深刻だと認識されている。南京に残ってアメリカ市民の避難を監督していた中国の大使館書記官ジョージ・アチソン・ジュニア(George Atcheson Jr.: 1896-1947)がこの救助の作業が砲艦パナイ号への空爆で執拗に妨害されていると報告して、東京の大使館にパナイ号事件が知らされた。合衆国大使ジョセフ・C.グルーはすぐに外務省に行き、攻撃を止める命令を出すよう要求した。

 その後、砲艦が明らかに南京の上流のかなり遠くで沈められたことがわかった。広田弘毅外相はすぐに遺憾の意を表明するために合衆国大使館に行った。レディーバード号への攻撃は昨日の朝、英国大使ロバート・L.クレイギー大使(Robert L. Craigie: 1883-1959)によって外相に知らされ、この件は英国軍武官のフランシス・S.G.ピゴット少将(Francis S.G. Piggott: 1883-1966)によって陸軍大臣の杉山[元:1880-1945]大将にもたらされた。杉山大将はその後代理人を英国大使館に送り、公式の遺憾表明と事件は調査中という確約をした。

 午後には広田氏が英国大使館に政府代表として行き、深い遺憾の意を伝えた。夜には外務省がアメリカ砲艦への攻撃について声明を出し、日本海軍の飛行機が南京から20マイル上流に10隻以上の蒸気船を見つけ、砲撃したと説明した。後にわかったのは3隻の蒸気船はスタンダード石油会社の船で、アメリカ砲艦1隻が沈没したことだ。「日本政府はこの事件の完全な詳細を受け取っていないが、起こったことを深く遺憾に思う。広田氏が今日グルー大使を訪問し、政府に代わって痛恨の極みだと謝罪した」と述べている。

 ワシントンの大使・斎藤博、南京の大使・川越茂(1881-1969)、上海の総領事・岡本季正(すえまさ:1892-1967)、上海の日本艦隊の参謀長がそれぞれ当該のアメリカ当局に遺憾の意を表明するよう指示された。海軍も昨夜この不運な出来事が起こったことに遺憾の意を表明し、海軍当局は全責任を認め、事件の対応のために適切かつ十分な方法をとるという声明を出した。

第24面:社説「パナイ号の撃沈」

 日本政府は揚子江上の砲艦パナイ号の撃沈とアメリカ商船3隻の攻撃とアメリカ人の人命損失の全責任を認め、謝罪し、賠償を払うと約束した。国務省が東京に送ったもう一つの要望に対する回答はどうか。今後このような「事件」(原文強調)を繰り返さないという保証である。

 明白な事実は、日本軍が中国にいる限り、このような保証は紙の上に書かれた以上のものではないことだ。(中略)この件で日本が与えられる唯一の有効性のある保証は中国から日本侵略軍を撤退させ、帝国主義的冒険を清算することだ。

 一方、我が国政府は現在の問題の困難さについて、市民から同情ある理解を得る資格がある。議会の議員たちが昨日提案したように、アメリカ砲艦を全部中国の海と川から撤退させ、我が国の商船と国民を揚子江流域に援助を与えずに残すと提案することは簡単だ。しかし、臆病な「中立法」でさえ、アメリカ船が全く平和的な貿易を行うことを禁じるべきとか、アメリカ市民が東洋に商人・外交官・ミッショナリーとして行くことを禁じるべきという論を主張して、政府の保護を喪失させるようなところまではいかない。

 ルーズべルト政権は中国で三つの難しいことを同時にしようとしている:アメリカ国民の完全に法的な権益をできる限り守り、我々が始めたのではない戦争に巻き込まれないようにし、早期に名誉ある解決をするために影響力を発揮しようとしている。これらの目的追求のために政権に理解と支援の両方が与えられるべきだ。

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