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2022-11-12

英米に伝えられた攘夷の日本(8-2-2)

「万延元年遣米使節」(1860)がワシントンで謁見したブキャナン大統領の無礼な発言と、21世紀のアメリカの対アジア政策の共通点を検証します。


キャプション:上段 左 SIM’MI BOOJSEN NO-KAMI, FIRST EMBASSADOR.
上段 右 MOORAGAKI AWAJI NO-KAMI, SECOND EMBASSADOR
下段 THE JAPANESE EMBASSADORS IN THEIR STATE COSTUME.
(正使 新見豊前守、副使 村垣淡路守)
(正装の日本の大使達)

日本の大使達

 HWの1860年6月2日号の表紙は日本使節の正使と副使の銅版画と解説です。その中で興味深い部分を抄訳します。

「舞踏会で」:

国務長官を訪問したのは3人のプリンスとその次のランクの役人5人と通訳2人だった。1時間近くこの10人の紳士は大勢の人々の凝視に、怯むことなく耐えた。その時の彼らの冷静さはいつもながら素晴らしかった。[群衆がじろじろ見つめる]傲慢さも彼らを困惑させたり、挑戦的な視線を返したりすることはなかった。時には唇に昇らせる価値のない言葉が直接投げかけられ、完璧に理解した者の耳に届いたが、彼らは心の動揺を示すことなく、ただ、唇を少し固くしただけだった。(中略)

「大統領の日本人観」:

彼らは自分のことをEmperor, His Majestyと呼んだ。土曜に私は階段を降りて、友人と握手し話したが、彼らはその振る舞いを全く理解できなかった。アメリカ合衆国のEmperorが降りていって、一般人と握手したのは彼らを驚嘆させた。彼らがどのくらいアメリカにいるのかわからない。100日か、60日か、ナイアガラ号がパナマに着くまでは彼らは待たなければならない。この日本人は私が会った中で最も奇妙な人々だ。彼らはすべてをメモする。いつでもスケッチをし、メモしている。彼らはまた非常にプライドの高い人々だ。とても低くお辞儀をするが、指示されている以上のことはしない。

「彼らの騎士道」:

大統領の姪、レイン嬢(Miss Lane)が小栗豊後守の刀の刃を見たいと言った。彼の役割は監察官、あるいは大使達の特別監督だ。小栗豊後守がこの婦人の希望を理解した途端、最高に上品な微笑で日本語で”Take it, my lady”と言いながら、刀を優雅に渡した。彼女は鞘からギラギラした刃を抜いた。鞘は半分木で、半分皮でできており、中は銀だ。レイン嬢は女らしく間近に見てから鞘に戻すと、持ち主に返した。彼は自分の名誉と防衛の道具が婦人の関心を引いたことに明らかに喜んでいた。(HW, 1860年6月2日, (注1)

ブキャナン大統領は日本人に心底飽き飽きし、使節団に対し日本との戦争を仄めかした

 日本大使達は今日、彼らの目的はニューヨークを訪問することではない、あるいは、帰国するまでこの都市[ワシントン]を離れないと宣言した。(中略)ブキャナン大統領は日本人に心底飽き飽きしている、彼の手から離れてほしいと言った。 日本人達はここ[ワシントン]に長く滞在していることに我慢できない様子を示し始めた。しかし、ワシントンを出る日も、帰国の日も決まっていない。(NYT, 1860年6月1日, p.1, (注2)

 使節は大統領に別れを告げにホワイトハウスに行った。大統領は彼らのために海軍の最も勇敢な士官数人を選んだこと、その士官達は平和時には親切だが、戦争になれば、防衛のために頼れる存在だと言った。しかし、日本との戦争では彼らが日本と戦うことがないようにしようと大統領は言った。
(The President, …, informed them that he selected for the commission several of the most gallant officers in our Navy, who, in peace, were most kind, but in war we depend upon them for our defence. He trusted, however, that they would never be required to operate against Japan. NYT, 1860年6月6日, p.1)

トランプ、バイデン政権の危険性

 このNYTの記事が事実だとしたら、19世紀アメリカの大統領の無礼さ、あるいは「モンゴル系有色人種」差別を込めた外交辞令だったことになります。これは21世紀のアメリカ大統領の発言にも通じます。バイデン大統領(Joe Biden: 1942-)は2022年9月18日にテレビ・インタビューで「中国が侵攻すれば米軍が台湾を守る」(注3)と発言しました。中国を挑発して戦争をしたいのでしょうか。安倍政権以来「戦争のできる国」にすることを切望してきた自民党政権は、アメリカの戦争に参加するために自国の憲法と各種条約に違反して大規模な日米合同軍事訓練を始めています。岸田首相は2022年5月に防衛費増額をアメリカに約束し(注4)、日本の敵基地攻撃能力の具体化を日米で協議しました(注5)

 中国に対する挑発的なアメリカの危険性を警告するアメリカの識者やジャーナリストが少数ですが存在します。「人類の生存を望むなら、我々[アメリカ]は中国と協力しなければならない」(注6)と題した論を、ネイサン・ロビンソン(Nathan J. Robinson:1989-,ジャーナリスト)とノーム・チョムスキー(Noam Chomsky:1928-,言語学者・哲学者)が2022年8月15日に発表しました。アメリカ政府に盲従する日本が知るべき警告なので、抄訳します。

現在の中国包囲網はオバマ大統領から始まった

 ドナルド・トランプ(Donald Trump: 1946-, 2017-2021年米大統領)は「中国は我々の敵だ」と繰り返し宣言した。FBI長官クリストファー・レイ(Christopher Wray)は2020年7月に「中国の脅威は我々の健康、生活、安全保障を脅かす」と警告した。

 (中略)「中国脅威」の本質は、アメリカがもはや世界を支配しないという脅威だ。我が国の外交の前提は我が国が世界支配をする資格が永久に100%あるということだ。これはトランプ政権の文書で明らかになった。2017年の国家安全保障戦略(National Security Strategy: NSS)は「中国はインド太平洋地域でアメリカを追い出そうとしている。国家主導の経済モデルの範囲を広げ、この地域での秩序を中国に有利に再編しようとしている」と述べている。インドー太平洋の国ではないアメリカがどうやって追い出されるのか、そのアメリカがどうしてアジアを支配する資格があるのかには触れていない。

 (中略)トランプ政権の「インド太平洋戦略の枠組み」は、この地域におけるアメリカの最重要の関心点は「アメリカの優位性を維持し」、「世界のこの最速成長地域における我が国の外交的・経済的・軍事的卓越性を維持する」ことで、中国の影響力を広げないことと述べている。つまり、最大のアジアの国がそれより小さなアメリカより軍事力も影響力も持たないことを確かなものにしなければならない。

(中略)しかし、[民主党の]ジョー・バイデンは中国に関して[共和党の]トランプよりタカ派で、レイシスト(人種差別者)と評される反中国キャンペーン文書を公開した。バイデンは習近平を「凶悪犯」(thug)と呼んだ。(中略)現在のこのコースはバラク・オバマの「アジアに軸足」(pivot to Asia)で開始され、アメリカの最高軍事能力はアジアを優先対象とし、「アメリカは太平洋の強国であり、我々はそうあり続ける」と宣言した。

 (中略)2022年国防権限法(National Defense Authorization Act )は中国をアメリカ基地、軍事力、増大する軍事パートナー国のネットワークで包囲し、中国を潜在的に窒息させるための詳細な設計図を提供し、ワシントンが中国の軍隊を中国領内にとどめて、将来の危機に際して中国経済を麻痺させるバリケードを作れるようにする。中国を脅威と特徴付ける人はその批判を正当化するために中国の過ちリストを挙げる。(中略)これらの問題はアメリカに対する脅威ではないし、我々が介入する権利があると主張できる行動ではない。(中略)ウイグル抑圧のために中国を罰する法律にバイデンが署名した一方で、バイデンは拳と拳で祝福する挨拶を独裁者として、イスラエルに数千万ドルの武器を売り、ガザ人を天井のない監獄(open-air prison)に監禁し続け、パレスチナの子どもたちを殺害し続けている。(中略)

中国は国連海洋法条約に違反したが、アメリカは条約に署名さえしていない

 我が国が80か国に配置している750の海外基地を中国はどう受け取めているのか?これらの基地は無害で防御的だと見るか?それとも我が国の利害にかなうために世界を形作る陰湿な努力と見るか? 中国が小さなソロモン諸島と安全保障条約を結んだ時、アメリカはすぐさまソロモン諸島に「圧迫を加え」始め、これを中国の官僚は(原文注:正確に)「南太平洋でモンロー主義を復活させる試み」と呼んだ。中国専門家のライル・ゴールドスタイン(Lyle Goldstein)は「中国の太平洋戦略」と呼ばれる公式論文を評論して、「中国が明言しているのは『太平洋が合衆国にとって最重要であり、アメリカは我々の裏庭にやってきて南シナ海をうろついているから、我々は彼らの裏庭に行かなければならない』」と言った。中国は確かに国連海洋法条約(UN Convention on the Law of the Sea )に違反した。しかしアメリカはこの条約に署名さえしていない。

アメリカが認識した利害にかなうものは全て善、それを傷つけるものは悪

 中国の台湾に対する行動は威嚇的だ。しかし合衆国は世界中の政府を追放する権利があると主張してきた。我々がアフガニスタンの人々を飢えさせている時に人権に関する深い懸念をいうのは邪悪だ。(中略)一般的ルールとして、アメリカは我々が封じ込めたいと思う国の犯罪性と暴力に反対し、我々の同盟国や大切なパートナー国の犯罪性と暴力を支持する。唯一のスタンダードはアメリカが認識した利害にかなうものは全て善、それを傷つけるものは悪ということだ。中国はもちろんこれをはっきりと見ている。「中国に対する攻撃は合衆国がしてきたことをそっくり映している」と趙立堅(Zhao Lijian,チョウリッケン:1972-, 中華人民共和国の外交官)が述べている。これに反論するのは難しい。ジョージ・ブッシュが9/11攻撃の報復を計画し、そのいくつかが違法だと警告された時、「国際法学者が何を言おうと構うもんか。奴らをやっつけてやる」と言った。合衆国は条約を勝手に破り、合衆国がニカラグア・コントラ[親米反政府民兵]を支持して違法な行動をしたと国際司法裁判所が判決を下した時、アメリカは裁判所の権限を認めず、判決の執行を阻んだ。我々が今要求しているウラディミール・プーチン(Vladimir Putin: 1952-)を起訴する犯罪のようなもので国際裁判所が合衆国を裁くようなことがあれば、必要なら我々はヘーグを侵略して起訴をやめさせるとアメリカは指摘した。(中略)

 台湾は1911年に日本に割譲されるまで数百年間中国の一部だった。第二次大戦前と戦中、日本は台湾を「浮沈空母」という軍事基地として使った。1945年に日本は台湾を中華民国に返還した。その後数年間は台湾の主権をめぐる論争があった。1949年に中華人民共和国が内戦で中華民国を破った時、蒋介石の中華民国軍は台湾に敗走し、亡命政府を設立した。その後中華民国と中華人民共和国がオール・チャイナの正当な政府だと主張し、60年代と70年代に蒋介石政府は中国本土に再侵略する計画があった。合衆国は長い間台湾が中国の一部だという立場を支持してきた。(中略)最近の数十年、[台湾では]自分たちを台湾人より中国人とみなす住民が減少している。台湾が中華人民共和国としてではなく、独自の国家とみなす傾向が増えている。(中略)

アメリカの台湾支持の行動は逆効果

 中華人民共和国からの視点からこの問題を見ると、なぜアメリカの台湾支持の行動が実際には逆効果だというのかがわかる。まず、なぜ中華人民共和国が台湾を中国の一部と見るのか、そして再統一が重要だとみなすのか理解できる—台湾は以前中国の一部だった;台湾は日本と中華民国から本土に対する戦争を始めるために使われてきた。(中略)

 もし我々の最終ゴールが台湾の自決權を保証し、戦争で台湾が消されることを防ぐことにあるなら、何が正しいアプローチだろう? まず、明らかに北京が武力で統一を追求しようとすることがありえるようなステップを取らないことだ。平和な現状維持を守るためにベストを尽くすべきだ。なぜなら、もし中国が台湾を獲得するとしたら、合衆国が台湾を守れるかはっきりしないし、いかなる米中戦争も、特に台湾人にとっては、前例のない規模の人道的経済的大惨事になるだろう。

 台湾人自身が戦争になるような状況ではないと思い、台湾政治家の中にはアメリカの中国との熾烈な主導権争いの激化がリスクを高めていると考える者がいる。フィナンシャル・タイムズが台湾の専門家の言葉を引用した:「中国の攻撃というリスクがあるという警告を頻繁に出している理由をワシントンは説明する必要がある」と述べた。台湾の安全保障研究所の研究者は中国の攻撃のリスクは「非常に低い」と評価した。(中略)台湾はあらゆる種類の外交手段がある。我が国はそれを奨励すべきだ。あらゆる種類の妥協をすべきだ:人的交流、軍事的な信頼醸成方法など。これら全てがウクライナとロシアとの間で行われるべきだった。しかし我が国は対決的なアプローチを主張し、恐ろしい戦争をやっている。

 我々は中台の友好的な関係を促進する代わりに、台湾が中国の占領に抵抗できるようにミサイルで覆われた「ヤマアラシ」になることを勧める道を選んだ。アメリカ高官たちは中国を怒らせる手段をわざととってきた。例えば、バイデンが台湾をめぐって中国と戦争すると約束したり、ナンシー・ペロシ(Nancy Pelosi: 1940-, アメリカ下院議長)が自己の権力拡大を誇示するために台湾訪問をした。これらによって我々は台湾人の自決権を支持していると自己賛美しているかもしれないが、現実にしていることは台湾が破壊される可能性を増やしているのだ。(ウクライナでも同様の状況で、ウクライナのNATO参加を求めるという(原文注:空)約束はウクライナの安全保障の名のもとに正当化された。しかし、それはプーチンが軍の配備なしにはウクライナが攻撃的な西側軍事同盟の一部になってしまうという思い込みをやめさせることには全く役に立たなかった。

合衆国には台湾をめぐる中国との戦争は必然的と考える人がいる

 アメリカは50年間「一つの中国政策」を受け入れ、どちら側もそれを弱体化させる動きをしていない。これは、合衆国による無謀で攻撃的な動きがなければ、続くことが可能だ。事実、台湾に関する中国の分別ある長期政策は侵略しないというもので、侵略すれば中国自身とその将来をひどく傷つけるし、自殺的戦争を起こさせる。(中国は侵略する計画があるという兆候さえ見せていない)。侵略せずに中国が貿易で生きている台湾の首を締めようとすればできるのだとはっきり示すことは可能だ。中国はユーラシアの中心になるという長期戦略を追求し続けることができ、巨大な広範囲の投資と開発を行って(今やアフリカの複数の地域とラテンアメリカの合衆国の領域まで組み入れている)、中東に拡大している。ヨーロッパはこの遠大な中国中心の経済システムを傍観し、どうやって入り込むことができるか見つけ出そうとしている。そのうち台湾も参加したいと思うようになり、商業関係を改善するだろう。中国は確かに合衆国の経済力には脅威だ:「これ」[原文強調、中国の経済力]こそが合衆国との暴力的対立を生み出しそうな原因で、台湾侵略の脅威ではない。驚くことに、合衆国には台湾をめぐる中国との戦争は必然的と考える人がいる。合衆国のインド太平洋司令部の諜報部長が「我々にとってただ時間の問題で、もしの問題ではない」と言った。戦争は考えられないというより、外交的解決は考えられないというのだ。(中略)

安全保障ジレンマ

 合衆国の中国との緊張は時に国際関係の古典的な「安全保障ジレンマ」と特徴づけられている。外交政策研究所のポール・ゴッドウィン(Paul Godwin)は「それによって、計画者によって防衛的と思われた軍事プログラムと国家戦略が向こう側には脅威的とみられる」と言う。スティーヴン・ウォルト(Stephen M. Walt)は「驚くべきことに、多くの頭のいい教育の高い西洋人—複数の著名な元外交官を含め—が彼らの情け深い意図は他人に透明に明らかではないということを認識できていないようだ」と警告する。つまり、中国は我々が(恐らく)次のような手段をとるときは、我々が中国の攻撃をやめさせようとしているに過ぎないとはみない:攻撃的な地域軍事同盟を構築する;周辺地域に中国を標的にした高精度の兵器で溢れさせる;中国に「敵」というラベルを貼り;中国沿岸をパトロールするために多くの軍艦を送り(表面上は、我が国が署名していない海洋法に関する国際連合条約を実施し、「航行の自由作戦」という婉曲表現をする);中国を抑止するためにオーストラリアに原子力潜水艦を艦隊を送り、中国沿海で軍事演習を行うことなど。

合衆国は世界を支配するつもりで、外交を避けている

 我々の行動が実は「防衛」と特徴付けられるものでは決してない可能性を考えてみよう。アメリカ人はアメリカの行動に注意を払っていないが、中国は注視しており、多分中国は我が国の政策を悲劇的にも誤解してなどいないかもしれない。ただ我々が公にした戦略文書を読んでいた。中国は合衆国の計画者がインド太平洋の支配を維持したがっており、我々が西半球でしたことを中国が東半球でする権利を否定していると見る。(中略)2005年にジョン・ミアシャイマー(John Mearsheimer:1947-,政治学者)が、中国が強国になるにつれて増える緊張について解説した。合衆国はピア競争(peer competiton同等者の競争)を許容できない。アメリカが20世紀に示したように、世界の唯一の地域覇権者で居続けると決心している。(中略)つまり、合衆国は、冷戦時代にアメリカがソ連に対して行動したのと同じ方法で、中国に対するのだろう。

現在、「狂気の軍拡競争が進行中」

 (中略)我々が今直面している状況は信じられないほど危険なものだ。狂気の軍拡競争が進行中だ。長年、中国は比較的低レベルの核武器を保持してきた。今やその武器生産を加速させている。平和な男ではないヘンリー・キッシンジャー(Henry Kissinger: 1923-)でさえ合衆国と中国は第一次世界大戦のような災難に向かってよろめきながら進んでいると警告した。熱核爆弾の時代、破壊力は1914年よりはるかに偉大だ。中国が合衆国に対する脅威だという考えそのものがあまりに馬鹿げていて、ライル・ゴールドスタインは「国家安全保障の人々の間ではジョークだ」と述べている。(中略)しかし、合衆国のアジアにおける経済的独占の能力に対しては中国は脅威である。もし我々が地球を共有したくないなら、衝突は確実だ。(中略)実際にこの国でしてきたことの歴史はまさに「中国を仮想敵国とすることで国家目的の意識を燃え上がらせる」ことだった。アメリカの国内問題について中国が非難されるのはこれが初めてではない。『黄禍!:反アジア恐怖のアーカイブ』(Yellow Peril!: An Archive of Anti-Asian Fear)の編集者たちが、アメリカの政治家たちが「あの恐ろしい有害な奴らが我々の問題全てを起こしている」と主張するために、アジア系の敵を煽り立ててきた歴史を調査した。(中略)

我が国の覇権を永久に維持したいという欲望を捨てよ

 我々は中国と協力していくべきだ。中国と合衆国2つの経済大国は地球温暖化やパンデミック、核兵器のような最重要問題を一緒に解決する必要がある。我々の運命は共に結ばれている。仲良く協力する以外の選択肢はない。それなのにこの2国の関係は崩壊している。ナンシー・ペロシ(Nancy Pelosi: 1940-)の台湾訪問に加え、新たな軍事演習を始めたが、これは恐ろしい間違いと深刻化につながる。このあと中国は気候温暖化その他についての合衆国との話し合いを打ち切った。地球温暖化問題が世界が直面する問題の中で最重要課題で緊急課題だが、世界の2つの主要国がこの問題を解決する話し合いさえできない。これは大惨事への道だ。合衆国は不必要に衝突を焚きつけることをやめるべきだ。中国の見地からどう見えるか考えるべきだ。地球を共有する14億の人口を持つ国を理解し、協力するために真心からの努力をしなければならない。これは中国の不正行為の擁護者になって、中国の人権侵害を問題にしないという意味ではない。種の長期的生存を追求するために我が国の覇権を永久に維持したいという欲望を捨てよという意味だ。

中国を挑発する米国は台湾有事に日本を戦場にし、自衛隊参戦を前提としている

 日本を戦争という大量殺人ができる国にしたいという安倍政権以来、自民党政府も自衛隊・防衛省も中国や北朝鮮を仮想敵国として軍備拡張をアメリカに約束しましたが、アメリカの対中挑発行為には日本参戦と日本本土を戦場化することが前提とされています。2022年5月13日にNBCで放送された軍事専門家によるシミュレーションでは、「中国が武力侵攻を決意」した場合、「初日の中国軍の先制攻撃で日本の米軍基地[横田、横須賀、嘉手納、普天間]がミサイル攻撃を受ける」と想定され、日本の民間人「死傷者数は数十人から数百人と予想」されています(注7)。その後の展開は当然日本全国を巻き込む日中戦争になりますし、ミサイルやドローンが各地の原発を狙えば、住民と環境への被害は計り知れません。

 自民党政権に国民を守る気がないことは、基地化している沖縄の住民の避難問題は考えずに(注8)、戦闘用弾薬の準備を進めることに端的に表れています(注9)。避難に関しては、原発再稼働、新増設、運転期間を無限にと訴える自民党政権と経産省(注10)が事故の際の住民避難に関心がない(注11)ことからも、国民の命と財産・生活を守ることに無関心だとわかります。

オーストラリア元首相の警告「中国を封じ込めるためにアメリカ・日本・インドとつながるべきではない」

 2022年10月に岸田首相は中国を敵国と想定した防衛協力強化にオーストラリアと合意したと報道されました(注12)。10月22日の日豪首脳会談の写真では両首相がコアラを抱いている姿が悪い冗談のようです。戦争という究極の自然破壊・人間破壊の相談をする首脳たちが、嫌がるコアラを抱く姿を世界に示したいというのは異常心理の表れでしょうか。中国と朝鮮半島に侵略し、日清戦争と日中戦争で10年間も中国で戦争をした日本が再び中国との戦争を想定するとは狂気の沙汰です。しかも中国との経済関係なしに成り立たない日本の現状では、戦争準備でなく、平和維持のための外交や人的交流に叡智を傾けるべきです。

 オーストラリアにはアメリカによる中国封じ込め作戦を批判する元首相がいます。1991年12月から96年3月までオーストラリアの首相だったポール・キーティング(Paul Keating: 1944-)です。日米豪印クアッド(QUAD)を「中国包囲網」として、「違法」で「戦略的ナンセンス」だと酷評して、オーストラリアは「中国を封じ込めるためにアメリカ・日本・インドとつながるべきではない」と忠告しました。アメリカの覇権の時代は終わった、「アメリカが巨大な力と神の耳を持ち、民主主義への改宗を勧めるという考えは20世紀には良かったが、21世紀は他の誰かに属する」と述べました(注13)

アメリカは核戦争を始めたいのか?

 アメリカの挑発行為は止まるところを知らず、2022年10月31日には核兵器を搭載可能な爆撃機B52を6機、オーストラリア北部の空軍基地に配備すると報道されました(注14)。『人民日報』傘下の英字新聞Global Timesは「アメリカはオーストラリアを対中国の『前進基地』にし、B52爆撃機を配備」(注15)という見出し記事で、以下の指摘をしています。

  • ワシントンは東京とソウルを前進基地にしたように、オーストラリアをアメリカの前進軍事基地にする。
  • キャンベラがアメリカに盲従する政策を続けるなら、国益を害するリスクに耐えなければならない。
  • アメリカの前進基地となることで、オーストラリアは中国とアメリカの戦争が起こったら戦場になるだろう。
  • オーストラリアは中国と友好的、協力的な関係を築くことがオーストラリアとその国民の実際の国益に合致することを悟る必要がある。

日本の客人達の忍耐力は限界に達している

 1860年のワシントンに戻ります。NYT(1860年5月30日)の社説「東洋の客人」(Our Eastern Guests)は以下のように述べています。

日本人達はワシントンで受けている注目に明らかに退屈し始めている。彼らは儀式のミッションで来ており、それが最も疲れる労働に変えられたことに非常に落胆している。彼らは舞踏会やパーティーや晩餐会に出席し、野獣のように見つめられるより、この国の機械や製造過程を検分し—何が新しいか、何が便利かを研究する方を選ぶという時間の使い方で良いセンスをしていることを示した。彼らはすでにこれ[歓迎の数々と群衆の注目]にすっかり嫌気がさし、次に訪問することになっている北の都市でも彼らを待ち受けている扱いに絶望している。(中略)彼らがここで見るもの全てが彼らが日本で慣れているものとは全く違うと理解するのは容易ではない。彼らは高位の人々で—最も厳格な隔離、最も貴族的な大衆からの孤立に慣れ、数千人の従者達から我々にはまさに屈従と見える敬意で日常的に扱われている(訳者強調)。彼らがここで遭遇する状況は彼らには全く理解できない—だから、彼らがこれほど長く我慢していることは驚きでしかない。彼らの忍耐は限界に達したように見える。

キャプション:The Ambassadors Leaving Their Apartment to Go to the Ball Given in Their Honor by Gen. Cass.
(大使達が部屋を出て、彼らのためにキャス国務長官が主催する舞踏会に行く)
出典:FLIN, June 6, 1860, p.25に掲載された銅版画が『万延元年遣米使節図録』(1920, (注16))に再掲載されています。

フィラデルフィアの造幣局訪問

 6月13日の朝、大使達は造幣局を訪問した。日本が貨幣の改鋳を計画し、将来的に日米貨幣の価値の基礎を分析する方法を確定したいと考えているため、この訪問は彼らにとって非常に重要だった。彼らの最初の訪問では大したことは起こらなかった。彼らは小判を分析したいと主張した。しかし、使われていた秤はそのような仕事には繊細すぎた。3枚の小判を溶かして分析する方法が提案されたが、大使たちは断った。分析は翌日に延期された。(FLIN, 1860年6月23日、p.74, (注17)

「フィラデルフィアの日本人」(NYT, 1860年6月16日、p.1)

 コイン分析の長時間の退屈なプロセスに彼らが耐えていることに海軍委員会のデュポン大佐その他は驚かされた。彼らは夕食にホテルに戻ることさえ断って、その場で米と魚を食べ、分析を見学し続けた。 使節団の全振る舞いは同席した者達を彼らの鋭さ、知性、そして高い育ちで印象付けた。分析は[造幣局長]スノーデン大佐、ジェームス・ブース教授 らの監督の下に行われ、その結果はスノーデン大佐から大使達に伝えられ、また、アメリカのコインが提供され、ご無事なご帰国をと挨拶された。使節団は返礼して、分析の結果に満足だと表明した。検閲官[小栗]は日米間で正当な通貨交換システムが確立されることを信じていると言った。日中、検閲官は我々の標準重量をテストし、日本と比較した。

「日本のコインの分析」(HW, 1860年6月23日、p.391)
 使節の合衆国造幣局への訪問は条約批准についで重要な任務だった。日本の硬貨が分析された—いくつかは彼らの面前で。

キャプション:Visit of the Japanese to the Philadelphia Mint, on Thursday , June 13th
(日本使節のフィラデルフィア造幣局訪問、6月13日木曜日、FLIN, p.76)

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1 Harper’s Weekly, vol.4, 1860. Hathi Trust Digital Library.
https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=mdp.39015006963360
2 The New-York Times, June 1, 1860. https://timesmachine.nytimes.com/timesmachine/1860/06/01/issue.html
3 「焦点:バイデン氏の台湾防衛発言、『独立支持』への転換示唆か」ロイター、2022年9月20日 https://jp.reuters.com/article/taiwan-biden-us-idJPKBN2QL0A1
4 「防衛費増額、『対米公約』ではない 主体的に決定=岸田首相」ロイター、2022年5月31日
https://jp.reuters.com/article/kishida-defense-spending-idJPKBN2NH0A5
5 「政府が元米高官から意見聴取 中国対処巡り、長期指針改定で」『沖縄タイムス』2022年10月22日 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1045058
6 Nathan J. Robinson & Noam Chomsky “If We Want Humanity to Survive, We Must Cooperate With China”, Current Affairs, August 15, 2022
https://chomsky.info/20220815/
7 瀬口清之「中国を挑発する米国は台湾有事に日本参戦が前提—米国政府の対中政策立案の構造欠陥が招くリスク」キャノングルーバル戦略研究所、2022年6月17日
https://cigs.canon/article/20220621_6852.html
8
注8:「住民避難の限界『議論を』 沖縄県の有識者会議、有事対応で指摘 緊張緩和の必要性求める」『沖縄タイムス』2022年7月2日
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/984830
9 「対中有事で弾薬20倍必要 九州・沖縄の備蓄1割弱」『産経新聞』2022/8/12
https://www.sankei.com/article/20220812-KRVX7YKJEJI3LBHNVSC7ZCOW4A/
10 「原発運転期間 停止中除く 60年超へ経産省案『上限無し』も 委員『福島の教訓放棄』」『しんぶん赤旗』2022年11月9日
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik22/2022-11-09/2022110915_01_0.html

*「原発の運転延長に反対は2人だけ、生煮えのまま進む議論 経産省有識者会議」『東京新聞』2022年11月9日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/212795

11 日野行介「ずさんな避難計画で原発再稼働に進む日本の現実」『東洋経済ONLINE』2022/09/19 https://toyokeizai.net/articles/-/618279
12 「日豪、中国にらみ防衛協力強化 首脳会談、新安保宣言に署名」『沖縄タイムス』2022年10月22日 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1044937
13 Eli Green “Paul Keating’s big call on China’s next move”, The Australian, October 12, 2022
https://www.theaustralian.com.au/breaking-news/paul-keatings-big-call-on-chinas-next-move/news-story/5766236ee341790f895e41d244066221
14 「米、豪北部に核搭載可能なB52の配備計画=関係筋」ロイター、2022年10月31日 
https://jp.reuters.com/article/usa-defence-australia-idJPKBN2RQ0RU
15 Song Zhongping “US turns Australia into ‘forward base’ against China with B-52 bombers deployment”, Global Times, Oct. 31, 2022 https://www.globaltimes.cn/page/202210/1278376.shtml
16 田中一貞(編)『万延元年遣米使節図録』田中一貞(出版者)、1920. 国立国会図書館デジタルコレクション  https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1920856
17 Frank Leslie’s Illustrated Newspaper, Vol.9, 1860. Internet Archive.
https://archive.org/details/franklesliesillu00lesl