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2020-04-07

英米に伝えられた攘夷の日本(6-7-4-1)

アメリカ国務省が『平和と戦争』(1943)という文書で、1931年から1941年のヨーロッパと日本の戦争についてまとめています。その第1章を「1931-1941年の運命的な10年は日本の暴力行為に始まり、日本の暴力行為に終わった」と始めています。

新型コロナウィルス をめぐる欧米の鎖国措置

 19世紀のイギリス文芸評論家アンドリュー・ラングについて紹介しようとこのサイトを始めたのですが、19世紀の日本と欧米の関係を知らなければラングの理解も不十分と思い、ペリー来航までの英米のメディア記事を通して見ようとしてきました。そして、真珠湾攻撃直前にまとめられたアメリカ国務省刊のペリー遠征の評価を見始めたところで、現実世界では新型コロナウィルス 騒ぎが起こり、現時点(2020年3月中旬)で欧米が国境を閉鎖する事実上の鎖国措置を始めたので、ペリー来航前の日本の鎖国に対する欧米の激しい非難の記事を思い出しました。

 4-1で紹介した1850年8月10日号の『イラストレイテッド ・ロンドン・ニュース』の「カリフォルニアとアジアの隣人たち」という題名の巻頭記事を読んだ時、欧米がアジアを武力攻撃してでも開国させようという「文明国」の論理に衝撃を受けました。日本は良質の金・銀・銅が豊富な国という噂が広がっていたためか、欧米に開放しないのは非文明的だという論調です。その一部が以下です。

 中国と日本の排他性と警戒心を最後に打ち破るのは非道徳的な手段かもしれない。しかし、その結果は、強者が弱者を征服すべき、あるいは光が闇を追い払うべきという絶対の必要性と同じに思える。この2国の排他性と警戒心はそれ自体が非道徳的であったから、物事が進む中で、彼らは不可避な罰を受けなければならない。それは、自然の偉大な道徳律に反する国すべてに天が命じたものである。1国家がうぬぼれのうちに閉じこもり、普遍的人間性の歩みや視線に対して領土を解放することを拒否する道徳的権利はない。どの国家の市民でも、一般の幸福のために制定された法律の運用から自分を孤立させることができないのと同じである。誰もが他人に何らかの義務を負っている。そして、どの国も文明の大家族内では、あらゆる他の国に対して行わなければならない兄弟としての義務がある。極東の文明はこの教訓をこれから学ばなければならない。

 この記事から3年後の1853-54年ペリー来航によって開国し、欧米から多くの人々が入国した結果、感染症も入ってきたことを思えば、2020年3月からの新型コロナウィルスをめぐる欧米の対応が鎖国ということを皮肉に感じます。日本では1859年にアメリカの船舶からコレラが侵入し、長崎から全国に広まり、20万人が死んだそうです((注1), p.194)。2020年3月19日の『ニューヨーク・タイムズ』の記事が「ウィルスは中国よりもヨーロッパに猛威を振るっている。これは開かれた社会の代償か?」(注2)という題名で、独裁主義的中国は国民の行動を徹底的に規制したからウィルスを封じこめたが、ヨーロッパは「行動と通行の自由、独立した意思決定に慣れた社会であり、政府は世論を心配するから、厳しい命令を出すのに慣れていないし、市民は命令に従うことに慣れていない。だから、これは開けた豊かな民主主義の中で生きることの代償を払っている」という専門家の意見を紹介しています。

新型肺炎の過熱報道の裏で憲法9条削除発言や放射能汚染水の環境放出を進める安倍政権

 新型コロナウィルスをめぐる日本のテレビ報道にも大きな違和感を覚えます。接触による感染で、80%は軽症だという病気に関して(注3)、テレビのワイドショーは毎日毎日番組のほぼ全時間を使ってきました。その間、福島第一原子力発電所事故で出続けている汚染水を大気中か海水に放出するという案が進行し(注4)、安倍首相が平和憲法9条を削除しよう(注5)、伊吹衆議院議長が改憲の実験台として緊急事態宣言を出せと(注6)、コロナウィルス感染拡大のタイミングを利用するかのような動きがあるのに、テレビは大きく取り上げません。

 また、新型コロナウィルスに感染しているかどうかの検査をすべきだと主張する専門家の一部は、福島第一原発事故で放出された放射能被害を過小評価することに貢献した人々で、被ばくした子どもたちの甲状腺がんの検査は過剰診断だと主張してきた人々です。彼らの貢献の結果、早期発見が要のはずのがんの検査を縮小する議論が主流になってしまいました(注7)。そんな人たちが新型コロナウィルス問題では、テレビに検査推進派として重用されています。

 放射能被ばくが空気からも水からも土壌からも体内に入り、特に子どもや胎児などへの被害が大きいことなど、私たちは福島第一原発事故から学んだはずです。汚染水には放射性トリチウムもその他の核種も含まれていますが、トリチウムは安全だから大気や海中に放出するというのが主流のようです。「トリチウムの細胞致死効果はγ線より高く、また放射線感受性は(中略)マウスよりヒトの方が高いことが明らかにされている」ことは昔から知られていましたし、「低濃度のトリチウム水による長期間被ばく」で死亡した例も出ています(注8)。トリチウム以外の複数核種、ヨウ素129やストロンチウム90などが「告知濃度限度」を超過していることも東京電力と経済産業省は説明してきませんでした(注9)。半減期はトリチウム12年、ストロンチウム90は28.8年です。こんな危険な放射能汚染水を環境中に放出する理由が東京電力の貯蔵タンク節約のためというのに、新型コロナウィルス報道で加熱するテレビは取り上げません。

 さらに、福島第一原発事故後、世界中が危険で高くつく原子力発電から安全な再生可能エネルギーにシフトする中で、安倍政権は原子力・核の維持に固執し、再生可能エネルギーを推進しようとしませんから、総電力発電比率の再生可能エネルギーが占める割合ランキングで日本は49位です(注10)。それを更に減らそうとする閣議決定を密かに行いました。再生可能エネルギー推進用の財源も原子力に使えるようにするというのです(注11)。原発技術そのものが破綻していて原発事故は必ず起こるとアメリカの元規制委員長が明言していますし(注12)、地震多発の日本では次の原発事故がいつ起こってもおかしくないからこそ、再生可能エネルギーを推進するのが国民の生命と財産を守る政権の役割のはずです。ところが、原子力を維持し、戦争のできる国にする安倍政権にいまだに支持率が半数近くもあるのは(注13)、日本が明治以降どんな戦争を続けてきたのか知らない国民が多いのか、安倍政権に今でも「忖度する」テレビ・メディアの影響なのか、それとも半数近くの人は放射能被ばくも戦争も賛成ということでしょうか。

アメリカ国務省刊『平和と戦争』(1943)

 真珠湾攻撃の直前にまとめられたアメリカ国務省によるペリーの日米和親条約の検証(6-7-1参照)で高く評価された幕府の交渉記録を英訳したアメリカ人外交官ユージン・ドゥーマンについて知りたいと思い、6-7-2から6-7-3-7まで翻訳紹介してきました。この他、外交文書録以外にドゥーマンが取り上げられているのは、アメリカ議会の「真珠湾攻撃に関する調査委員会」(1945-46)です。

 その箇所を見る前に、この委員会で重要視された『平和と戦争』と題された国務省刊の本(1943)を簡単に紹介します。真珠湾攻撃当時のアメリカ政府が見た太平洋戦争への道がわかる資料です。「真珠湾攻撃に関する調査委員会」の委員たちは、外交文書録はわかりにくいが、『平和と戦争』は1931[昭和6]年から1941[昭和16]年までの流れを要約しているからわかりやすいとコメントしており、委員会審議もこの本を参照して行った形跡があります。

 これは国務省が1943[昭和18]年に公刊した文書で、時代背景からすると、なぜアメリカがヨーロッパと太平洋の戦争に参加する決断をしたのかと国民に説明するためかと思われます。『平和と戦争—合衆国外交政策 1931-1941』(Peace and War: United States Foreign Policy 1931-1941)と題されています(注14)。解説部分が151ページ、その後に外交文書が698ページ分掲載され、全874ページの「本」です。

解説の日本に関する部分だけ拾ってみると、99ページになり、ヨーロッパの戦争に関しては52ページなのに、日本に関してはその2倍のページ数をさいていることになります。しかもそれは真珠湾攻撃までのことです。日本に関する部分で、重要だと思った箇所を抄訳します。

 1943年1月2日、国務省は「平和と戦争:合衆国外交政策 1931-1941」と題した出版物を公表した。この10年間の合衆国の外交行動に関する文書を含んだものだった。(中略)現在のこの出版物は合衆国が平和と世界秩序の条件を推進しようとした政策と行動の記録であり、また、日本・ドイツ・イタリアの侵略から生じる世界規模の危機にどう対応したかの記録である。

1943年7月1日

第1章:運命的な10年

 1931-1941年の運命的な10年は日本の暴力行為に始まり、日本の暴力行為に終わった。この10年は日本・ドイツ・イタリアの世界制覇の断固とした政策の冷酷な進展によって特徴付けられた。

 1931年に日本は満州を奪った。2年後にドイツは軍縮会議から脱退し、再軍備を始めた。1934[昭和9]年に日本はワシントン海軍軍備制限条約の廃棄通告をした。

 1935[昭和10]年にイタリアはエチオピアを侵略した。1936[昭和11]年にヒトラーはロカルノ条約を破棄して、非武装地帯のライン地方を要塞化した。1937[昭和12]年に日本は再び中国を攻撃した。1938[昭和13]年にヒトラーはオーストリアを占領し、チェコスロバキアを切断した。1939[昭和14]年の前半にヒトラーはチェコスロバキアの破壊を完成した。メーメルを奪い、イタリアはアルバニアを侵略した。

 1939[昭和14]年9月にヒトラーはポーランドを攻撃し、その後の2年間にヨーロッパのほぼ全ての国が戦争に陥れられた。1940[昭和15]年に日本は軍事圧力をもってインドシナに入った。ついに1941[昭和16]年12月7日、日本は合衆国に武力攻撃を開始した。その直後に日本・ドイツ・イタリア、そしてその衛星国の側から合衆国に宣戦布告をした。

 これらの条約破棄・暴力・開戦などの増加し続ける事件に直面して、合衆国が次々と続く各段階で従った方針・政策をここに要約する。(中略)

 この本が扱っている時期の大部分で、この国の世論の多くはヨーロッパの戦争が合衆国の安全保障に重大に影響するという論を受け入れなかったし、合衆国が枢軸国[日独伊]のいずれかに攻撃されることがあり得るという論も受け入れなかった。この点で、大統領と国務長官の見解は違っていた。二人は早くから枢軸国の侵略的な政策が最後には合衆国を攻撃する方向に向かっていると確信していた。したがって我が国の外交を、枢軸国の侵略の行進を止めようと努力している国々にできる限りのあらゆる支援を与えるために行うべきだと確信していた。

[本書で]検討する時期の我が国の外交政策は合衆国の世論の段階的変化のフレームワークの中で、必然的に「中立」法と表現されていた孤立主義から離れて、枢軸国の意図が世界制覇の計画だと認識する方向に変化した。彼らの世界制覇計画では合衆国を究極の犠牲者にすると意図されており、したがって我が国の第一の政策は現実の高まる危機に対する防衛でなければならなかった。これが我が国の外交行動に影響した重要な要素である。(中略)

訳者解説:第2章は「日本の満州征服 1931-1932」という題名で、柳条湖事件の解説から始まっています。続く章も日本の動きに触れていますが、次に全章を日本に充てているのは「日本の中国攻撃 1937」と題された第7章で、「盧溝橋事件」という小見出しで始まり、「『パナイ号』事件」という小見出しで終わっています(pp.52-53)。「パナイ号事件」については6-7-1で『ニューヨーク・タイムズ』が連日報道したと簡単に紹介しましたが、第7章で国務省がどう報告しているか抄訳します。

第7章:「盧溝橋事件」〜「『パナイ号』事件」

 1937年12月12日に合衆国政府と国民は、中国の揚子江上で合衆国の小砲艦パナイ号と合衆国の商船3隻が日本の飛行機によって爆撃され、破壊されたというニュースに大きな衝撃を受けた。乗組員と乗客が爆撃され、機銃掃射された結果、合衆国市民が命を失った。我が国の政府はすぐに日本に文書を送り、巻き込まれた合衆国の船は「争う余地も議論の余地もない権利によって」(原文強調)揚子江上にいたこと、船は合衆国の国旗を揚げていたこと、船は正当で適正なビジネスに従事していたことを主張した。合衆国政府は日本政府に対して、「正式に記録される謝罪の表現;完全で包括的な補償;今後中国におけるアメリカ国民と国益と財産が日本軍による攻撃対象とされず、日本当局や軍によって不当な妨害を受けないという明確な措置を講じたという保証」を要求した。

 この文書は12月13日の夕方に日本に送られた。12月14日に在日本アメリカ大使が日本の外務大臣から文書を受け取った。そこには日本政府がこれらの船の損害と乗組員の負傷に対し、「非常に深く」(原文強調)遺憾に思っていること;「心からの謝罪」を表明したいこと;全ての損害に対する補償をすること;事件の責任者を「適切に」(原文強調)処罰すること;政府はすでに「同様の事件が起こらないよう、現場当局に厳しい命令」を発したことが述べられていた。最後に日本政府は、この「不幸な出来事」(原文強調)によって日本と合衆国の友好関係が損なわれないことを「念願」(原文強調)していると表明した。後に日本政府は合衆国の要求に従って全額補償した。

 パナイ号事件の解決方法に対して合衆国の国民が圧倒的な賛同を与えたことは、合衆国を戦争させないという国民の切望の証拠である。

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1. 牧純「江戸時代の海外交流と医療・感染症に関する基盤研究の試み」『松山大学論集』第26巻第5号、2014.12.
2. Richard Pérez-Peña ”Virus Hits Europe Harder Than China. Is That the Price of an Open Society?”, The New York Times, March 19, 2020
https://www.nytimes.com/2020/03/19/world/europe/europe-china-coronavirus.html
3. 「新型ウイルスで中国が初の大規模調査『80%以上は軽度』」BBC, 2020年02月18日
https://www.bbc.com/japanese/51543061
4. 「福島第一処理水 海洋放出の利点強調 大気も選択肢 政府小委提言」『東京新聞』2020年1月31日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/202001/CK2020013102000275.html
5. 吉川真布「『9条、時代にそぐわない』安倍首相、自民議員に語る」『朝日新聞DIGITAL』2020年1月16日  https://digital.asahi.com/articles/ASN1J6VDTN1JUTFK014.html
6. 井上峻輔「新型肺炎『緊急事態の一つ、改憲の実験台に』伊吹衆院議長」『東京新聞』2020年1月31日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/202001/CK2020013102000138.html
7. 「甲状腺がん疑い230人〜福島県検査で13人増加」OurPlanet-TV, 10/04/2019
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2440
8. 「トリチウムの生物影響」ATOMICA, 2000年03月
https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_09-02-02-20.html
9. 牧田寛「東京電力『トリチウム水海洋放出問題』は何がまずいのか?その論点を整理する」『ハーバー・ビジネス・オンライン』2018.09.04. https://hbol.jp/174094
10. 「日本は49位! 再生可能エネルギー発電率国別ランキングTOP10グラフで分かるエネルギー割合」『データで見る日本と海外の環境問題』, 2029.06.20
https://22nd-century.jp/environment-issues/renewable-energy-rate-ranking/
11. 笹井継夫、伊藤弘毅「再生エネの財源、原発事故処理に流用可能に 改正法案」『朝日新聞DIGITAL』2020年3月18日 
https://digital.asahi.com/articles/ASN3K6719N33ULFA018.html
12. 「『原発技術は破綻、必ず事故起こる』米規制委元委員長が警鐘」『東京新聞』2019年07月31日
https://genpatsu.tokyo-np.co.jp/page/detail/1113
13. 「安倍内閣支持横ばい39%=桜『説明果たしていない』78%—時事世論調査」2020年3月13日
https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_pol_politics-support-cabinet
14. Peace and War:United States Foreign Policy 1931-1941, Department of State, Washington, 1943. Hathi Trust Digital Library.
https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=mdp.39015023272209