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2019-06-12

英米に伝えられた攘夷の日本(6-4-2)

イギリス議会下院でカントンへの攻撃を非難する決議が可決され、パーマーストン政権が解散総選挙にします。その経緯を英米のメディアがどう報道しているか検証します。

アメリカ特派員のイギリス批判

1857年3月25日:第1面「解散は5月に行われる/イギリス政府の対中国政策の未来/中国からの重要なニュース」(注1)

『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』特派員:ロンドン(1857年3月6日)

  • ここの事態は非常に驚くべき状態である。糾弾された首相は敗北に反抗して、議会が非難した政策を続けると主張した。4晩も続いた活発な討論の後、満場の議会で16票のマジョリティによって、中国における不法の、人倫に背く、愚劣な、完全に弁明の余地のない、不当な戦争を続けると大臣たちは宣言されたのだ。議会の早期段階では辞任が自然でふさわしく、そうすれば、女王が他のアドバイザー、つまり大臣たちを選ぶことができるのに、ザ・ミニスター[原文は唯一の意味のtheを斜体で強調:the Minister]、ここでは大臣は実際は一人だけだ。彼はこの投票を笑い飛ばし、解散を宣言した。
  • この大臣[首相の意味で皮肉に使っている]は(中略)蒸気戦艦と様々な種類の船を現場に向かわせ、激しく活動すると言った。野党の中心メンバー、コブデン、グラッドストンその他は質問を繰り返し、説明を求めた。それでもパーマーストンは沈黙のままだったが、中国にいるイギリス人の生命は守られること、主要な目的遂行のためのエネルギーと警戒は緩めないことを部下に言わせた。

アメリカ人特派員の記事はこの後延々と続き、イギリスの奇妙さ、パーマーストンのメディア操作の巧みさについて述べています。

カントン攻撃の是非を問うイギリス総選挙

 この時のイギリス総選挙の報道と同列でイギリス軍艦が長崎港入港を幕府の抗議を無視して強行したことが報じられていますが、ここでは見出しだけで内容は省略します。

1857年4月10日:第1面「イギリス総選挙はパーマーストン卿支持/日本の長崎港に強行入港/イギリスを調停すべき」

1857年4月13日:第1面「中国皇帝の降伏/日本の港へのイギリス船2隻の強行入港」

 イギリス戦艦の長崎入港に関するニュースは4月10日の内容に情報が追加されています。

1857年4月16日:第1面「英国の選挙/野党の敗北/パーマーストン卿が中国の事件についてスピーチ」

  • 英国の選挙は、現在時点で、パーマーストン卿の疑いのない勝利の様相を呈している。
     ロンドンの『タイムズ』はリチャード・コブデン[6-2-1参照]の敗北について述べるに寛大であるが、以下で『タイムズ』が述べている以上に寛大ではない。
  • [『タイムズ』から] 彼[コブデン]は欠けたレンガにように廃棄することができない男である。(中略)我々は過去10年間、この2人の紳士[コブデンとジョン・ブライト]の公人生活の全てについて、ほぼ全部反対してきたが、今、下院の名簿にジョン・ブライト(John Bright: 1811-1889)とリチャード・コブデンの名前が削除されているのを見て、我々は深く遺憾に思うと正直に言わなければならない。
  • パーマーストン卿は自分の成功だけでなく、彼の反対者が敗北したことでも、非常に幸運だった。「マンチェスター党」と一般に知られている、コブデン・ブライト、その他全員が大敗北した。この人々が中国問題で政府を少数派に追いやったのであり、そのために議会の解散が起こったのである。
  • パーマーストンの不信任投票で、コブデンを支持したグラッドストン氏はオックスフォード大学の不寛容を代表して、多少の困難はあったが、再選を果たした。(中略)グラッドストン氏は48歳、オックスフォードの2科目最優秀学位(double first class)を得て、偉大な政治家となることが期待されており、雄弁な政治家である。

パーマーストンによる中国攻撃正当化

「パーマーストン卿が中国の事件についてスピーチ」

3月28日にパーマーストンが行なったスピーチを抄訳します。

  • [戦闘]行為の舞台が非常に遠く離れている所であったこと、戦闘の限られた性格が非常にうまくいっていることが、外国に強い印象を与え、英国民の愛国心をさらに強く示したことは最高に満足を感じている。
  • これは、諸君の代表を侵害しても、罰されることも、抵抗もないと思っているかもしれない他の国々[日本を含む?]との関係に関して、最高の結果をもたらすだろう。なぜなら、1国にとって、その権利を油断なく監視していると示すのは立派な政策なのである。
  • これらの役人[ボーリング、パークス]が最初の兆しを止めるために時宜にかなった措置を取ったから、戦争好きだと言うのは全く間違っている。彼らは平和の守護者としてベストな人々だ。なぜなら、事件が知らされ、事件が進行した時に初めて、我々の代表者たちは[権利の]侵害を防ぐために監視し、そうすることで初めて、権利の侵害を止め、侮辱がなくなると期待できるのである。(Cheers)
  • 能力の限りを尽くして義務を果たし、その行為を我々が胸中で承認した我らの代理人[ボーリング]を見捨てた下院の決議を覆すために、2,3票必要だ。英国の心を持つ全イギリス人なら、似たような状況で全く同じことをしただろう。(Cheers)
  • ジョン・ボーリング卿は現在の役割を今後も果たし続け、彼は英国政府に信頼されている。

イギリス・メディアの2種類の論調

「パーマーストン卿の勝利と野党の圧倒的敗北」『ロンドン・タイムズ』4月1日より

  • 英国貿易を行なっている平和な船に掲げられている英国旗を引き摺り下ろし、海賊の父親だと言われている老人を斬首する[パーマーストンの議会演説:6-3-3参照]目的で乗組員を逮捕する葉のようなやつの権利を、国民が立ち上がって擁護すると期待することに道理があるだろうか?
  • 政治家だと公言している者がこのような訴えを首相に対して強要するなどとは、我々には愚の骨頂に思える。しかし、彼[パーマーストン]は国民を代表して、それを受け入れざるを得なかったが、その結果について、我々同様、彼は自信があった。この訴えがなされたことに我々は満足している。この満足感は日毎に増して、今や、政治的違いや法案によってではなく、単に国民の自然な感情と常識に対する訴えによって議会が選ばれたことで、イギリスは祝福されるべきである。

「反対の見解」『ロンドン・スター』4月1日より

  • 彼[首相]の目的が最も明確に示されたのは、葉長官と中国人に対する激しい暴言という、ビリングスゲート[Billingsgate:口汚い暴言]そのものを、ひっきりなしに繰り返したことに表れている。この国の目をたった一つの目的に釘付けにするためだった。その間、彼は狡猾な手品で、有権者が気づかないうちに、彼らの票をちょろまかしてしまったのだ。

訳者コメント:この選挙結果について確認しておくべきは、当時の選挙権には女性は含まれていないこと、「年価値10ポンド以上の家屋、事務所、店舗などの所有者又は借家人」を含む、都市中流階級中層部まで選挙権が広がった」(注2)時代だという点です。つまり、中国での貿易、特にアヘン密輸にかかわっている商人が多く含まれている可能性があるということです。

『タイムズ』がパーマーストン首相のスピーチを引用して、中国当局が「海賊の父親だと言われている老人を斬首する」と、ファクト・チェックもせずに、首相の言葉を引用報道している点は、安倍首相とNHKの関係(注3)に似ていると思わされます。この後の『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』では激化する中国関連のニュースが続き、2月14日香港発の特派員からの報道はイギリスの中国攻撃に批判的です。

1857年4月17日:第1面「中国皇帝が戦争に反対」

1857年4月22日:第1面「中国戦争/香港在住の外国人の不安/毒殺の企て/英国の増援艦隊/作戦計画/アメリカ艦隊の動き/海賊を追跡/ジャンクとの戦闘」(香港、1857年2月14日)
 『ニューヨーク・デイリー・タイムズ』の特派員がアメリカ戦艦サン・ジャシント号に乗船して、中国での英米戦艦の動きを報道しています。イギリス海軍の戦闘に批判的な視点も垣間見えますので、重要と思われる点を抄訳します。

  • イギリスはほぼ毎日、中国での軍隊を増強している。「中国との2回目の戦争」の開始以来、毎週インドのセポイ部隊が到着し、ここで行う戦闘には非常に効果的な男たちである。[インド兵だから中国人と戦わせるには効果があるという意味か?] 現在、中国の海にいるイギリス戦艦は23隻、1,232部隊が香港にいる。
  • 増援隊が着いてからのイギリスの作戦は、フォルモサ[台湾]島を保持し、カントンを破壊し、大隊で北京へ行軍して、新たな条約を要求することだ。その条約の趣旨はイギリス人の性格を知っている者なら簡単に推測できる。我々はここ[香港]で、イギリスの影響という素晴らしい切り札で、英国人の卑劣な行為をするよう招集をかけられるまで待機しているのだ。「国際礼譲」(”Comitas inter gentes”)というやつだ。

1857年4月23日:第1面「中国皇帝戦争遂行を決意」

1857年4月27日:第1面「ジョン・ボーリング卿、中国の野蛮性を語る」(香港 1857年2月24日)

 友人宛の書簡が新聞に掲載されたようです。毒入りパンを食べて中毒で苦しんだ状況を伝えた後、これが中国式戦争だと言って、まるで中国政府の仕業と言わんばかりのデマ(パークス領事が中国政府の関与を否定、6-3-3参照)を広めています。

  • このような形式の戦争は対応するのが難しいですが、一般人の同情と憤りを煽ると確信しています。
  • 我々の家に火をつけたり、我々を誘拐したり、殺したりする者に高額の報奨金が役人によって払われます。全ての国(中国人の憎しみは無差別だからだ)の不運な犠牲者は捕らえられ、斬首され、彼らの首はカントンの塀に晒されました。暗殺者たちには高額な報酬が与えられました。彼らはキリスト教徒の墓を暴いて、頭蓋骨を公衆の目に晒すことさえしました。これら全ては十分に恐ろしいことですが、その結果は最も有益なものになるのは疑いありません。我々は過去の出来事の賠償金を取り立て、将来の安全の保証も手に入れるからです。
  • 政府と議会と世論がこの大きな戦いにおいて我々の味方であることを疑っていません。我が国と人類の真の永久の利益のために私の命が永らえることを祈っています。

訳者コメント:戦争を仕掛けた現地の英国政府代表が、抵抗する中国市民の報復を中国政府の戦争方法だとみなして、犠牲になった[真偽のほどはわかりません]イギリス人さえ賠償金の理由になる、それが自分の手柄だ、人類の利益に貢献していると豪語する心理になるのが、グラッドストンが警告した野生の欲望(6-3-2参照)に目が眩むということでしょうか。メディアの見出しに、日本に関しても「強制する」(force to)という語が盛んに使われるのも、弱者を征服することが文明の証という心理が働いているように感じます。

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1 The New York Daily Times, March 25, 1857.
https://timesmachine.nytimes.com/timesmachine/1857/03/25/issue.html
2 森脇俊雅「サンドイッチ選挙区について:英国における議員と選挙区の関係」『法と政治』61(4), 2011-01-20.
https://kwansei.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_snippet&index_id=4281&pn=1&count=50&order=7&lang=japanese&page_id=30&block_id=84
3 河村能宏、鈴木友里子「首相『サンゴ移転』発言放送は妥当か NHKに疑問の声」『朝日新聞DIGITAL』2019年1月11日
https://digital.asahi.com/articles/ASM1C5D0YM1CUCLV00G.html
「<社説>首相サンゴ移植発言 フェイク発言許されない」『琉球新報』2019年1月9日
https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-858590.html