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2019-09-06

英米に伝えられた攘夷の日本(6-6-5)

1852年4月の『イラストレイテッド ・ロンドン・ニュース』は「東洋における西洋」と言う巻頭記事で、戦争によって領土を拡張する英米の正当性を強調しています。

「東洋における西洋」『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』1852年4月17日

「東洋における西洋」『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』1852年4月17日

 原文にはない小見出しを適宜付けます。

  • 1852年4月17日(ILN):「東洋における西洋」[巻頭記事](注1)
     西洋はずっと前から東洋に来襲していた。ヨーロッパの影響と思想の波は、その中心である大英帝国から一方ではインドに、他方ではアメリカに襲った。我々の東洋における「工場」は隷属的帝国となり、我々が統治するには厄介で手に余るほどになった。一方、西部における我々の植民地は独立帝国となり、その豪華さと影響と力において、その親と競争するほどに成長した。(中略)

大英帝国の欲望は果てしなく、節度などない

 大英帝国は今現在新たな東洋の戦争にてこずっている。我々は人口の多い、半野蛮のビルマ王国との全面戦争の最中だ。インドの豊かで広大な帝国を所有した今、アレキサンダー大王の領土が価値なきものになるほどだ。我々は時には領土を失うという前提条件で領土拡張をせざるを得ない。我々にとって、節度が侮辱や攻撃から我々を守ってくれることはない。傲慢で部分的な情報しか持たない野蛮人が愚かにも我々との衝突に突入してくる。その結果は、ハリー・スミス卿(Sir Harry Smith: 1787-1860)のフィール部族に対する脅しがインドの原住民に対して実行された。彼ら全部が、あるいは一部が我々の消化具合や気分や都合に合わせて、少しずつ「食い尽くされた」(原文強調:”eaten up”)。シンド地域とパンジャーブ地域が我々が求めた増大路線の犠牲者の直近例だ。中国は以前同じような例を与えてくれたので、我々は香港島を食した。我々の胃のキャパシティーの証拠として香港を併合したのだ。ビルマが次の例として約束されている。(中略)

戦争は領土拡大の手段であり、東洋にいい刺激を与える

 西洋の屈強な男たちが東洋に移住すれば、必ず喧嘩が起きる。喧嘩から戦争になり、戦争から帝国の拡大になる。これら全てから、その手段は悪く見えるかもしれないが、長く停滞し、膿で爛れ、腐りきったアジア世界の文明に衝撃と刺激を与えるのだ。その刺激から、どんな有益な結果がこれから世界に生じることになるのかはわからない。そして、精力が尽き果て、しぼみゆく東洋の愚鈍な保守性と、活動的な西洋の心との衝突のおかげで、商業・芸術・科学・文学・哲学・人間性・宗教の勝利と進歩がもたらされるかもしれない。

大英帝国は征服の先頭に立ち、今や東洋で最高の強国だ

 これまで大英帝国はこの自然のプロセスの衝となってきた唯一の国だった。ヨーロッパ史の初期にはオランダとポルトガルだった。その頃、この2国はイギリスよりもっと活動的、進取的、商業的だった。イギリスはその頃様々な事情からそうなれなかった。2国は日本と中国との間に準友好関係、準敵対関係を築いていた。フランスもまた東洋に足場を得ようとしたが、それほど成功しなかった。最近のフランスの影響力はほとんどなくなってしまった。ポルトガルの影響力はヨーロッパにおける重要性にふさわしい程度まで弱まった。オランダの影響力はまだ大きいが、地域的に限定されている。イギリスの影響力は彼らの後を継いだ。そしてこの国は良きにつけ悪しきにつけ、悪よりも善のためだと我々は心から信じるが、東洋の最高の強国になったのである。我々は征服のために出て行き、刀によるだけでなく、我々の思想の力によって征服した。軍事力を使うことはなかなかせず、どうしても抜かなければならないときだけ刀を使ったのだ。

大英帝国の息子であるアメリカが真似を始めた

 我々が東洋に西洋文明を確立したことで、世界全体にどんな益がもたらされるかはこれからの時代が十分に証明するだろう。しかし、この強力なゲームをするのは今や我が国だけではない。雄親がしたことを息子が真似する。大英帝国が示した例はアメリカに影響する。ジョナサン[Jonathan=アメリカ]はジョン[Johnl=イギリス]が達成したことをやってみようと決意している。東洋は両側から無礼な揺さぶりを受けなければならない。

アメリカが中国と日本と喧嘩をする時がやってきた

 カリフォルニアで金鉱が発見されてから、太平洋の西海岸に活気ある人々が続々と移住してきた。アメリカ合衆国の子どもたちがその鋭い長期的に見渡す目で予想したのは、中国か日本、あるいはその両方との喧嘩が遅かれ早かれ、カリフォルニアの植民地化の結果としてやってくるということだ。アメリカのオピニオン・リーダーたちは日本のドアをノックして、「この人々が何でできているか」(原文強調”what the people were made of”)見定める意図を隠さない。1850年8月の本紙に掲載された「カリフォルニアとアジアの隣人たち」と題された記事(4-1参照)で、この問題にイギリス世論の目を初めて向けさせた。(中略)その後、パーマーストン卿が外務大臣だったときに、イギリス政府は日本帝国に向かって、世界に対し隣人らしく振る舞うよう促す試みをわずかだがした。しかし、この試みは大胆さに欠けていた。イギリスの権利の意識がまだ十分強くなっておらず、また、任された大使が日本に喧嘩を仕掛けて、戦争を起こすには、世論の食欲や感情がまだふさわしい程度に盛り上がっていなかった。したがって、パーマーストン卿が与えたヒントはまだ効果がないままだ。日本は我々や外の世界に見向きもしなかった。そして以前のような「偉大な未知のもの」(原文強調”the great unknown”)でい続けた。つまり、思想、商業など世界の必要物を遮断し続け、人類の一般事業に手を貸さず、国家間の警察的役割や海洋保安に何の貢献もせず、中国以外の外国を野蛮人、敵として扱い続けているのだ。

 しかし、我々が停滞している一方で、偉大な商業国家である合衆国の前進的な人々は、公的債務もなく、良心の呵責もなく、アグレッシブになるという力と意志を両方持ち、2年ほど前に遂に日本に公正な手段でも汚い手段によってでも、世界に対する義務を果たさせると決心した。一見すると、そのような進め方の道義は問題があると見えるかもしれないが、大人の見方で考えれば、その避けられない必然性は合衆国の手段であろうと、我々であろうと、あまりに明らかだ。不思議なのは、この偉業が今着手されようとしていることでなく、ずっと昔に達成されなかったことだ。

 この後に、日刊紙New York Courier and Inquirerの記事を引用しています。内容は、日本の地理;人口;アメリカ捕鯨船との関係;外国との通商を拒絶する権利はない;膨大な長さの海岸線を所有している;嵐などで日本の海岸線に漂着したアメリカの船乗りを虐待し、時には殺す等々です。引用の後の最後の段落では、ペリー提督の日本遠征の艦隊について述べた後、以下の文章で締めくくっています。

アメリカ政府はこの計画に取り掛かったのだから、「最後までやり通す」(原文強調”carry it through”)ことを確信している。アメリカ人の大胆な気性と若々しい野望に全くふさわしい事業だ。結果がどうであれ、日本当局には同情の余地はない。[彼らに]なされることは全文明世界にとっても、日本にとっても究極の利益になるだろう。

解説:ハリー・スミス卿は陸軍大佐として1835年に南アフリカの喜望峰地域でカフィール族との戦争を担当し、1845年から46年には少将としてシーク教徒との戦争を指揮しました(注2)。中でも1846年1月のパンジャブ地方における英軍とシーク軍の「アリワルの戦い」(Battle of Aliwal)は、英軍の視点からは「ほぼ完璧な戦」と評される圧倒的な英軍優勢の戦争でした(注3)

 “The Great Unknown”はウォルター・スコット(Walter Scott: 1771-1832)が「ウェイヴァリー小説」を匿名で出版した1814年から、彼が13年後に告白するまで、「偉大な未知の作家」として知られていた名称です(注4)。その後、「偉大な未知のフロンティア」という意味で、グランド・キャニオン探検(1869)に使われ(注5)、現在では宇宙についても使われているようです。ラングも『シェークスピア・ベーコン・偉大な未知の作家』(Shakespeare, Bacon, and the Great Unknown, 1912)という題名の本を書いています。

21世紀型領土獲得案

 19世紀中頃の新聞記事を通読している時に、トランプ大統領のグリーンランド買収発言が報道されました。『ニューヨーク・タイムズ』が2019年8月21日の社説「トランプ、グリーンランド、デンマーク。これは現実のことだろうか?」(注6)で、アメリカの領土獲得の歴史を述べていますので、抄訳します。

 「グリーンランドを買いたい」とトランプ大統領が言った。「あり得ない!」とデンマーク人とグリーンランド人が言った。この巨大な凍土の島とその豊かな鉱物資源はデンマークとグリーンランド両者で共同に支配している。「それなら、女王への訪問を取りやめる」と自称不動産取引のマスターは拒否されることに我慢できずに言った。「これは何かの冗談か?」とヘレ・トーニング=シュミット、前デンマーク首相が皆を代弁してツイートした。

 これが概要で、ほぼ毎日我々を驚かせ、疎遠にさせ、激怒させる新たな方法を見つける大統領による、さらに驚かされる行為の一つだ。(中略)

 グリーンランドを買おうとしたアメリカ大統領はトランプ氏が初めてではない。トルーマンが1946年に試して失敗した。その前の大統領は買収によって領土の多くを獲得したのだ。トーマス・ジェファーソンは1803年にフランスからルイジアナを買収した。アンドリュー・ジョンソンは1867年にアラスカを買った。ウッドロー・ウィルソンは1917年にデンマークからデンマーク領西インド諸島、現在の合衆国ヴァージン諸島を手に入れた。

 もしトランプ氏がグリーンランド買収を取り決めたら、その偉業を歴史に残せたかもしれない。しかし、合衆国はグリーンランドに主要な軍基地を建設するためにこの島を所有する必要はない。この点でさらに、世界の主要な列強が領土や植民地を征服したり買収するのが文明の使命だとみなした時代は終わった。ロシアが2014年にウクライナからクリミアを強奪した時の激怒がいい証拠だ。

 「グリーンランドは売り物ではない」とデンマーク首相のメッテ・フレデリクセンは断言して、この考えを「馬鹿げている」(absurd)と言った。彼女は「グリーンランドはデンマークのものではありません。グリーンランドはグリーンランドのものです。これが真面目に考えられたことでないことを強く望みます」と言った。そして辛辣に付け加えた。「幸いなことに、他国とその人々を買ったり売ったりする時代は終わりました。その時代を終わったままにしておきましょう」。

 トランプ氏はフレデリクセン首相の反応を「不快だ」(nasty)と言って、「合衆国に対してそんな言い方はしないものだ。少なくとも自分の統治下では」と言った。

 トランプの発言”absurd”の発音がおかしいと、CNNのアンカーが目を白黒させて、「アブザードじゃなく、アブサード」と訂正していたので、安倍首相の数々の漢字の誤読を思い出しました。ただ日本のテレビ・メディアのほとんどが安倍政権擁護ですから、「退位礼正殿の儀」で「天皇、皇后両陛下には末永くお健やかであらせられますことを願って已みません」と言うべきところを「願っていません」と言ったという深刻な誤読を含めて報道しません(注7)。アメリカのメディアの多くが「権力の監視」をきちんとしているのが羨ましい限りです。

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1. ”The West in the East”, The Illustrated London News, Vol.20, 1852, Jan-June, Hathi Trust Digital Library.
https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=uc1.c0000041897
2. The Autobiography of Lieutenant-General Sir Harry Smith, John Murray, 1903.
https://digital.library.upenn.edu/women/hsmith/autobiography/harry.html
3. :”Battle of Aliwal”, National Army Museum
https://www.nam.ac.uk/explore/battle-aliwal
4. Brian Ferguson, “The day Walter Scott admitted to Waverley novel”, The Scotsman, 11, Sept. 2014
https://www.scotsman.com/arts-and-culture/books/the-day-walter-scott-admitted-to-waverley-novel-1-3537929
5. Jason Mark “John Wesley Powell and the “Great Unknown”, SIERRA, Jul 3, 2018
https://www.sierraclub.org/sierra/2018-4-july-august/books/john-wesley-powell-and-great-unknown
6. The editorial board “Trump, Greenland, Denmark. Is This Real Life?”, The New York Times, Aug. 21, 2019.
https://www.nytimes.com/2019/08/21/opinion/trump-greenland.html?action=click&module=Opinion&pgtype=Homepage
7. 田岡俊次「『已む』読めなかった? 安倍首相が歴史的儀式で驚きの大失言」AERA, 2019年5月20日号
https://dot.asahi.com/aera/2019051400027.html
「安倍首相、またも誤読?『背後』を『せいご』『云々』(でんでん)に続き」JCASTニュース、2018/9/28
https://www.j-cast.com/2018/09/28339802.html
「安倍首相、『訂正でんでん』と誤読? 参院代表質問答弁」『朝日新聞DIGITAL』2017年1月25日
https://www.asahi.com/articles/ASK1T62CZK1TUTFK00S.html